同じ大学を同じような成績で卒業し,同じ施設で研修している2人の研修医XとYがいた。研修医Xの患者は苦情を訴えず,順調に回復,病棟の雰囲気も和やかであった。一方,Y医師の患者は愁訴が増え,頓服の要求も増え,病棟の雰囲気も悪化した。この現状を米国のJG Wartkinsは,医師の医学的知識・診療技術を超えた何か大切なfactor(人間的な部分)が,治療の過程に影響を及ぼすと考え,それを「治療的自己(therapeutic self)」と名づけた。この治療では,患者への「客観的な理解」と患者が語る内容への「共鳴」(ともに楽しみ悲しむ一時的な同一化)が重要とされる1)。
臨床現場では,たとえ患者が一般的な概念では非常識だと思われるような行動をとったとしても,医師は以下の態度で接することが重要となる2)。
①患者のパーソナリティーを第一印象などの先入観で評価しないようにする。②医師は,患者がどのような言動に傷つき反発したかを聴きながら,そうせざるをえなかった現実を理解する。③患者の「語り」から,核心的な課題を明確化し,患者も主体的に治療に参加することを促す。
たとえば,血糖コントロールが不良である糖尿病患者や医師に攻撃的になる患者の場合も,ありのままを受け入れる姿勢を保ち,症状が改善されない要因を,生活史・家族関係・性格特性などの視点を加味して検討していく。その結果,患者は,これまで表明できなかった内面を語り,医師は,治療上の工夫を見つけることができる3)。
【文献】
1) ジョン・G・ワトキンス:治療的自己. アドスリー, 2013.
2) 吾郷晋浩:日心療内誌. 2012;16(1):45.
3) 河合啓介:日心療内誌. 2015;19(2):110-6.
【解説】
河合啓介 国立国際医療研究センター国府台病院 心療内科診療科長