ノロウイルスなどの冬期大流行と対照的に,夏期の食中毒は細菌性が多い
夏期限定的に増加する細菌性食中毒の原因菌としては腸炎ビブリオと大腸菌(ベロ毒素非産生性)が挙げられる
通年性に多く発生するカンピロバクター属,サルモネラ属,ウェルシュ菌,ブドウ球菌,大腸菌(ベロ毒素産生性)による食中毒は,夏期にも多く発生する
食中毒と診断した場合は,直ちに保健所に届け出る
食中毒は細菌やウイルスをはじめとする病原微生物や,それらが産生する毒素あるいは化学物質(フグ毒・キノコ毒・貝毒・トリカブトや有機リン,シアン化合物など)などに汚染された食物を摂取することで,嘔吐,下痢,腹痛などの消化器症状が出現した状態を指す。原因となる病原微生物は,社会環境の変化により大きく変動する。かつてわが国では,細菌性赤痢,腸チフス,コレラなどが珍しくなかったが,近年ではインフラ整備などによる衛生環境の改善によって稀な感染症となった。
食中毒の発生に際しては速やかに保健所に届け出を行う必要がある。厚生労働省の食中毒統計によると,ノロウイルスなどの冬期大流行とは対照的に,食中毒総数に対する細菌性食中毒の比率は夏期のほうが通年と比較しても断然高い(表1)1)。もちろん報告の多くは集団発生の場合で,腸炎散発例の場合は届け出自体が出されず,統計に反映されない場合があることを考慮に入れる必要はあるが2),夏期に流行する細菌性食中毒の傾向を知っておくことは大切である。さらに,細菌性の中でも通年性に多く発生するものもあれば,特に夏期に限定して頻発するものもある。本稿ではこれらに焦点を当て,その傾向を考察する。
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