テノホビル アラフェナミドフマル酸塩(TAF)は,核酸アナログであるテノホビル(TFV)のプロドラッグであり,従来のテノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(TDF)に比し,肝臓に効率よく取り込まれる
TAFの第3相臨床試験では,有効性においてTDFに対する非劣性が証明され,TDFと比較して腎機能障害や骨密度低下が少ないことが示された
TAFは,エンテカビル(ETV),TDFとともに核酸アナログ治療の第一選択薬である。特に治療開始時に腎障害,低リン血症,骨減少症・骨粗鬆症を認める場合は,ETVとともにTAFが第一選択薬となる
TDFからTAFに切り替えることで腎機能障害や骨密度低下が改善することが示されている。TDF投与例で,特に腎障害,低リン血症,骨減少症・骨粗鬆症を認める場合には,TAFへの切り替えが推奨される
TAFの長期投与のデータはいまだなく,胎児への安全性についてもエビデンスが乏しい
テノホビル アラフェナミドフマル酸塩(TAF)は,B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)感染症およびヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)感染症に対する抗ウイルス薬として開発された薬剤であり,核酸アナログであるテノホビル(TFV)をホスホンアミデートで修飾したプロドラッグである。TFVは本来,腸管からは吸収されないが,プロドラッグであるTAFは腸管から血中へと吸収され,血中から標的細胞,すなわち肝細胞あるいはリンパ球系細胞に取り込まれると速やかに加水分解を受け,活性代謝物であるテノホビル二リン酸(TFV-DP)へとリン酸化される(図1)1)。TFV-DPは,HBVおよびHIVの逆転写酵素によりウイルスDNAへと取り込まれ,ウイルスDNA鎖の伸長を停止させることで,ウイルスDNAの複製を阻害し抗ウイルス作用を発揮する。
TAFより以前に開発されていたテノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(TDF)もTFVのプロドラッグであり,標的細胞に取り込まれたあとの抗ウイルス機序はTAFとTDFとでは同じである。しかし,TAFとTDFとでは側鎖の違いから,血中での安定性に差があり,副作用の程度や頻度が異なる。すなわち,TAFはTDFに比し血漿中において安定であり,活性リン酸化代謝物であるTFV-DPを標的細胞内により高い濃度で送達することが可能である。その結果,治療用量ではTFVの循環濃度はTDFと比較して約90%低く抑えられ,TDFと比べて優れた安全性プロファイルが期待される。
B型慢性肝炎・肝硬変に対し核酸アナログで治療する場合,多くは服薬を年余あるいは生涯にわたり継続する必要がある。そのため,強力かつ安全で,耐性が出現しにくく,簡便に投与できる抗ウイルス薬が求められている。TAFは,既存薬に比較して少なくとも短期的には改善された安全性プロファイルを有しており,B型慢性肝炎・肝硬変の新規治療薬として重要な位置を占めている。