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仮説の検証─鼻毛の巻[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(197)]

No.4904 (2018年04月21日発行) P.62

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2018-04-18

最終更新日: 2018-04-16

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鼻毛を一気に抜くグッズを見つけた。気持ちええんとちゃうん、と思って購入。固形のワックスを電子レンジで加熱、水飴みたいにして専用の棒にからみつけ、鼻の孔に突っ込む。ちょっと熱いけどがまん。2分ほどすると固まるので、エイッと抜く。

文字通り根こそぎ、それもホントに一気に抜けてなかなか爽快である。そんなことして痛くないのかと思われるだろうが、当然のことながら、むちゃくちゃに痛い。

かといって、泣くほどに痛くはない。のではあるが、反射のせいか、初回は涙がボロボロ出た。えらいもんで、2回目以降は、どれくらい痛いかがわかっているからだろう、落涙反射(というのか?)はなくなった。何事も経験というのは大事である。

ずいぶんと昔になるが、金属製の鼻毛抜きで鼻毛を大量に抜いた経験談を書いたことがある(其の25「偉大な発見は、ちょっとした『実験』から」)。そこで、ひょっとしたら鼻毛は伸びながら太くなるのではないかという、毛髪では認められない現象の仮説を提示しておいた。なんと、このたび、めでたくそれが検証できた。

鼻毛抜きで抜くことができる鼻毛というのは、ある程度以上の長さのものに限られる。しかし、このグッズは違う、鏡で覗き見てもほとんどわからないような短さ、1ミリ程度のものまですべてが抜けるのだ。

そして、結果は一目瞭然。うんと短い鼻毛はびっくりするほど細い。きちんと計測してないから正確なところはわからないけれど、見た目には、同じ長さの鼻毛は同じくらいの太さなのである。

いささか感動した。私の観察眼の鋭さに、ではない。あらたな実験系を用いると、それまでもやもやしていたことが一気に解明される、ということにである。生業としている科学研究と全く同じやないの。

もうひとつ、面白いことに気がついた。鼻毛の伸びるスピードである。一気に毛根から抜いて、用意ドンで生え始めるのだから、伸びる期間は同じなのに、部位によって長さに大きな違いがある。そして、その伸び方の分布は左右でほぼ対称だ。

ということは、鼻毛の毛根には部位特異的な違いがあるということになる。はたしてそれは幹細胞の性質の違いによるのか、それとも数の違いによるのか。一問解けてまた一問。世に不思議さのタネはつきまじ。

なかののつぶやき
「ごっそりと抜いた鼻毛における白髪の分布にはパターンがなさそうなので、色素幹細胞の喪失は、毛根においてランダムに生じるようであります。参考までに、抜いた鼻毛が円錐形に固まったワックスにいっぱいささっている写真を掲載しようかと思いましたが、不快に思われそうなのでやめておきます」

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