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【私の一曲】ピアノソナタ第17番ニ短調作品31の2

No.4906 (2018年05月05日発行) P.65

大塚邦明 (東京女子医科大学名誉教授)

登録日: 2018-05-01

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ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが作曲したピアノソナタ。「テンペスト」の通称で知られる。(CD:SICC 19024/Stereo Copyright 2017 Sony Music Japan International/Manufactured by Sony Music Labels Inc.)

躍動するハイリゲンシュタットの決意

私にはこころを奮い立たせてくれる一曲がある。仕事が思うように進行しないときに鼓舞され、刀折れ矢尽きここまでかと心が沈んだときに勇気をもらい、鬱屈として気分が晴れないときに幸せをもらった。ベートーヴェンのピアノソナタ「テンペスト」である。

そのメロディとリズムは、得も言われぬ美しさと哀愁を伴って、私の心の奥深くまで清らかに響きわたる。ハーモニーとメロディには、過去から現在へ継続する苦渋を映す哀愁が込められ、主題のリズムとそのテンポには、新しい世界を切り拓くという強い意志が紡ぎ込まれている。

第1楽章のメロディでこころが開かれ、そのリズムから勇気をもらい、第2楽章のハーモニーで悩みが癒される。そして第3楽章の神秘的で躍動的なリズムから、強い意欲と新しい決意がもたらされる。そのメロディとハーモニーとリズムは、増幅と減弱という展開の手法でひたすら反復され、勢いよくコーダに雪崩れ込む。その激しさに、これまで何度も助けられた。

このソナタを作曲した1802年、32歳のベートーヴェンは難聴の不安におびえながら生きていた。もし「ハイリゲンシュタットの遺書」の存在を知らなければ、創作欲にあふれ意気揚々としていたようにさえみえる。テンペストを含む3曲のピアノソナタ、3曲のヴァイオリンソナタ、交響曲第二番、エロイカ変奏曲とも呼ばれるピアノ変奏曲等、6つの作品が作曲されている。

ベートーヴェンは難聴に絶望しつつも、それを糧として豊かな創造の時期を創りあげた。テンペストは、それゆえに人のこころを打つのであろう。その調べはピアニストを問わずどのテンポの収録作品もよいが、なかでも私は、Valery Afanassievの収録が気に入っている。

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