(青森県 H)
痙攣発作の原因は多岐にわたり,1つひとつ可能性を除外する必要があります。本症例の場合,てんかんの既往はなく,痙攣の原因となる脳器質性疾患や代謝性疾患なども否定的です。残る可能性としては,心因性のものと薬剤性のものが考えられます。
心因性発作は偽発作とも呼ばれ,てんかんの初診患者の5~20%を占めると言われています1)。本症例は焦燥感が強く精神科クリニックで治療を受けており,心因性発作を起こす背景はあると思われます。この場合は,脳波検査が鑑別に有用です。心因性発作の場合,痙攣を繰り返しても脳波は正常であるのに対して,てんかんや他の原因による痙攣発作では,脳波で棘波,徐波の異常が認められます。
薬剤性の痙攣では,その機序として,①もともと患者にてんかんの素因があり,薬剤が発作を誘発した場合,②てんかんの素因のない患者に薬剤自体が持つ催痙攣性により発作が起こった場合,③薬剤自体には催痙攣性はないものの,その薬剤の作用が痙攣を起こす状況を引き起こした場合,があります。
③は,経口血糖降下薬による低血糖や,抗不整脈薬による一過性の心拍停止などで痙攣が誘発されます。また,薬剤性の痙攣では危険因子として,ⓐてんかんの既往,ⓑ高齢者,小児,身体的衰弱,ⓒ腎機能障害,ⓓ電解質障害,ⓔ大量投与,ⓕ相互作用,が挙げられています2)。
本症例の場合,ⓑとⓕが該当し,通常報告されている各薬剤の痙攣の副作用の頻度よりも高くなることが予想されます。服用中の薬剤をみると,ご指摘のように痙攣発作の原因としてレボフロキサシンが最も可能性が高いと思われます。神経細胞の抑制性神経伝達物質としてγ-アミノ酪酸(GABA)がありますが,ニューキノロン系抗菌薬はGABA受容体の阻害作用を有し,その結果,神経細胞の興奮性が高まり痙攣を誘発すると想定されています2)。特に本薬はフェニル酢酸系やプロピオン酸系の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)との併用で痙攣の誘発頻度が高まることが報告されているので注意を要します。
ご質問ではクロキサゾラムによる痙攣も心配されていますが,本薬はベンゾジアゼピン系抗不安薬で,同じ系統のジアゼパム投与により痙攣は消失していることから,原因としては考えにくいと思います。
【文献】
1) 日本神経学会, 監:てんかん治療ガイドライン2010. 医学書院, 2010, p126-7.
2)栗田 正:日本臨牀. 2012;70(Suppl 6):640-4.
【回答者】
栗田 正 帝京大学ちば総合医療センター 神経内科教授