病理学者・緒方知三郎氏の主著。南山堂より昭和32年第1版が発行。写真は昭和36年改訂の第6版
我々が学生の頃、2年間は予科であり、3年生の時から医学の勉強が始まった。医学の勉強は解剖学を基本としてスタートし、生理学、生化学、薬理学等の基礎医学が始まる。4年生になると、病理学などの病変の勉強になる。この時に出会ったのが緒方洪庵の孫である東京大学教授・緒方知三郎氏の「病理学入門」であった。
本書により疾病学の勉強をするということが現実に感じられた。57年が過ぎた今も私の手元に保存してあり、随所に書き込みや重要な文言に赤い下線が引かれている。医学生として、これほど読み込んだ教科書はない。この本を見て、病気の本質に初めて接し、医学・医療の道へ進む意思が固まったのであった。
この本の内容は、病因(内因と外因)、病変〔奇形、循環障害、受身の病変(萎縮・変性・壊死)、活動的の病変、炎症、腫瘍〕、臓器別に見た病変、病変の相互関係、死と死後の変化という構成になっている。今改めて見直しても、優れた内容、構成だ。
病理学とは、疾病の本態を究明する学問で、病的な構造(解剖と組織)や機能を明らかにするものであり、疾病学を総合的に包括している。本書は内外の病因論についても詳細を極めている。マクロからミクロまでの病変に関する記述も実に的確である。死後の変化にまで言及している。
本の中に挾んであった当時の病理学総論の試験問題が興味深い。曰く、「われわれが感染を受けた時生体はどのような防御反応を示すか、よく考え、頭で整理したうえでまとめなさい。」、曰く、「本態性高血圧症の病理発生を全機論の観点から論ぜよ。」、曰く、「悪性腫瘍によるヒトの死とはいかなることか。」、曰く、「病理解剖室に入ったことがあるか。その時に見た病理解剖例について詳しく記述せよ。」