株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

呼吸困難

  • prev
    • 1
    • 2
  • ■緊急時の処置

    【酸素投与】

    PaO2で60mmHg,SpO2で90%以上を目標に酸素療法を開始する。

    FIO2や状況を考えながら酸素投与器具(鼻カニューレ,酸素マスク,リザーバー付きマスク,ベンチュリーマスク)を選択する。

    二酸化炭素が蓄積している慢性呼吸不全では,低濃度から酸素投与を行いCO2ナルコーシスを防ぐ調節酸素療法を行う場合がある。

    【気管挿管/人工呼吸】

    急性心不全による肺水腫やCOPDの急性増悪等では非侵襲的陽圧換気で管理が可能な場合がある。

    上気道狭窄や閉塞,酸素化維持困難,喀痰排出困難,意識障害の出現,高度なショックがみられる等,臨床医が必要と感じたときは気管挿管を行う。

    ■検査および鑑別診断のポイント

    【心電図】

    心電図で虚血性心疾患,不整脈の診断が可能である。

    【画像】

    心臓超音波:壁運動の異常や右心負荷(肺血栓塞栓症),原因疾患(弁疾患,シャント,心タンポナーデ等)が診断できる。また,気胸をエコーで診断(肺の所見が消失)することも可能である。

    胸部X線:骨(骨折,骨透過像等),軟部組織(皮下気腫),横隔膜(横隔膜挙上,腸ヘルニア),縦隔(気腫像,拡大,CTR),気管(偏位の有無),肺野(肺炎,気胸,胸水,間質陰影,肺水腫,腫瘍等)をもれなく観察する。

    胸部CT:診断を確定できる場合があるが,バイタルが不安定な状況でのCT撮影はCT室での心停止がありうるため注意を要する。肺血栓塞栓症を疑った場合は胸部造影CTで肺動脈を撮影する。

    【血液検査】

    血液ガス分析で酸素化の程度(P/F比),換気の程度(PaCO2分圧),酸塩基平衡〔呼吸不全があるなら代償されているか,糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis:DKA)はないか〕など代謝性アシドーシスを確認する。

    血算で貧血や多血症,白血球異常(感染性・炎症性疾患)を確認する。

    生化学所見ではBUN・Cr(腎不全),電解質異常(K,Mg,P:筋力低下),血糖(DKA),D-ダイマー(肺血栓塞栓症等),NT-proBNP(心不全),心筋逸脱酵素(CK-MB,トロポニン:急性心筋梗塞)を確認する。

    ■落とし穴・禁忌事項

    重症な呼吸不全(気管支喘息大発作など)で,歩行と同時に心停止となる症例があるため注意を要する。

    喘鳴を伴う呼吸困難の原因が気管支喘息ではなく,気道狭窄の場合がありうる。注意深く病歴聴取や理学所見をとる必要がある。気道狭窄を疑ったら咽頭・喉頭の直視,ファイバースコープによる観察,CT撮影により鑑別を行う。

    CO2が蓄積する慢性呼吸不全であっても,低酸素が遷延して生命に危機が及んでいる場合には最初から高濃度酸素を十分投与して人工呼吸機器管理を行う。

    酸素化の指標としてはSpO2が有用であるが,換気の指標にはならないことに注意が必要である。

    ■その後の対応

    【救急】

    アナフィラキシー:直ちに原因薬剤を中止してアドレナリンの投与を行う。急性心筋梗塞は心電図,心臓超音波,心筋逸脱酵素等で診断を行った上で再灌流療法(percutaneous coronary intervention:PCI)等をできる限り早く開始する。

    窒息:ハイムリック(Heimlich)法等で塞栓異物を除去する。

    緊張性気胸:呼吸困難出現から心停止までの時間が短い場合があるため,病歴や理学所見から診断し脱気を行う。

    急性肺血栓塞栓症:ヘパリンを投与しながら,血栓融解療法や手術による血栓除去を行う。

    心タンポナーデ:心嚢穿刺や心膜開窓術で循環を維持し,必要があれば原因疾患に対し手術を行う。

    【緊急性がない場合】

    呼吸困難が主訴であっても様々な原因が考えられる。緊急性がなければ病歴や身体所見をもとに血液検査,画像診断,生理学的検査を行い,鑑別診断を進めていく。診断がついたところで疾病に必要な治療を行う。

    慢性疾患の急性増悪の場合は,治療方針が決定している場合が多いので病歴やカルテをよく確認する。場合によっては呼吸困難に対する緩和的な治療が必要となることがある。

    ■文献・参考資料

    【参考】

    ▶ 藤井一彦, 訳:ハリソン内科学. 第4版. 福井次矢, 監. メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2013, p235-7.

    ▶ 日本救急医学会 専門医認定委員会, 編:救急診療指針. 第4版. へるす出版, 2011, p313-7.

    ▶ Sarko J, et al:Tintinalli's Emergency Medicine. 7th ed. McGraw-Hill, 2011, p465-7.

    ▶ Braithwaite S, et al:Rosen's Emergency Medicine. 7th ed. Mosby, 2009, p124-31.

    【執筆者】 櫻井 淳(日本大学医学部救急医学系救急集中治療医学分野准教授)

    1190疾患を網羅した最新版
    1252専門家による 私の治療 2021-22年度版 好評発売中


    PDF版(本体7,000円+税)の詳細・ご購入は
    コチラより

  • prev
    • 1
    • 2
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    page top