腹部には実質臓器と管腔臓器が存在し,血管や実質臓器損傷では出血によるショックが,管腔臓器損傷では消化液の漏出で腹膜炎が生じる。
腹部外傷における損傷される頻度が高い臓器は,肝臓,脾臓,腎臓である。前腹部は腹筋のみで覆われており,臓器に直達外力が及びやすく,椎体との間で実質臓器,消化管,大血管が損傷されやすい。
受傷機転は損傷されうる臓器を考える上で重要である。わが国では交通外傷や転落・墜落外傷による受傷機転が多く,約9割を鈍的外傷が占める。車のハンドル外傷では肝臓,膵臓,十二指腸,横行結腸などが損傷されやすい。墜落外傷では腎茎部を損傷することがある。
抗血小板薬や抗凝固薬の服用の有無を必ず確認する。高齢者では本人からの聴取だけでは不十分なこともあり,確認は慎重に行う。
初期診療は「外傷初期診療ガイドラインJATECTM」のプロトコールに準じてABCDEアプローチで行うが,腹部外傷は循環のC(circulation)の異常をきたすことが多い。primary surveyでは生理学的徴候をもとに,バイタルサインの安定化を図り,血圧に頼らず早期にショックの徴候を把握するよう努める。
secondary surveyでは見落としがないように頭から足先までだけでなく,背部を含めた全身観察を行う。後腹膜側には大血管や臓器があるが,重症患者では背面の観察は容易ではなく注意が必要である。骨盤骨折,生殖器や会陰部の損傷,脊椎・脊髄損傷を疑う場合には直腸診を行う。
自動車事故でシートベルト痕があれば,腸管損傷の頻度が高いとされている。管腔臓器の損傷はCTで診断できない場合があり,腹膜炎の所見がないか慎重に診察する。
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