□まず,気道と呼吸の評価を行い,酸素投与を継続あるいは開始する。
□意識レベル低下による舌根沈下,下顎呼吸,呼吸音消失または減弱あるいは極度の低酸素血症を認めた場合は経口気管挿管を行う。
□末梢静脈路を確保し,細胞外液投与を開始する。
□薬物投与ではアトロピンが第一選択である。0.5mg(1mL/1アンプル)を静注し,心拍数の上昇を図る。反応のない場合は5分ごとに同量を反復投与する。合計投与量が3.0mg(6アンプル)に達するまで投与可能である。
□続いて経皮ペーシングを行う(後述)。
□アトロピンに続く薬物投与としてドパミンおよびアドレナリンが重要である。
□ドパミンは多くの施設で0.3%製剤が採用されている。シリンジポンプを用いて2~10μg/kg/分(γ)で持続静注する。
□アドレナリンは極度の低血圧でない限り適応は少ないと考える。2~10μg/分での投与が推奨されている。具体例としては,アドレナリン1mg(1mL/1アンプル)を生食49mLに溶解して合計50mLとし,シリンジポンプを用いて6~30mL/時で持続静注する。ドパミンと比べて溶液をその場で作成しなければならず,煩雑という欠点がある。
□症候性徐脈に対してアトロピン静注が無効の場合には,全例経皮ペーシングを作動させる。
□スタンバイ:症候のない安定した徐脈であっても12誘導心電図にてⅢ度(完全)・高度あるいはモビッツ型Ⅱ度房室ブロックと診断した場合は除細動器の使い捨てパッドを患者に貼付し,いつでも開始できるようにする。このことをスタンバイと言う。
□ほとんどの施設で,経皮ペーシング機能を備えたモニター付き除細動器が常備されている。除細動器本体,電源コード,心電図誘導ケーブルとディスポ電極,経皮ペーシングのための使い捨てパッドおよびケーブルを確認し,パッドを患者胸壁に密着させる。パッドは心臓を挟むように,右鎖骨尾側と左乳頭外側にそれぞれ貼付する。
□除細動器の電源を入れる(通常はⅡ誘導に設定される)。ペーシングモードは多くの場合,デマンドモードを選択する。ペーシングレート(目標の心拍数)を60~80/分にセットし,ペーシング強度を最初はゼロにしておく。ペーシングのスタートボタンを押し,モニター波形をみながらペーシング強度を徐々に上げる。出力を上げていくと,スパイク直後に幅の広いQRSとそれに続くT波が出現する(捕捉captureと言う)。大腿動脈を触知し,ペーシングに同期した脈拍を必ず確認する。その後,ペーシング可能な最低出力(ペーシング閾値)に設定し,閾値より10%以上高い出力で維持する。通常は100mA以下でcaptureするが,最大出力(200mA)でもペーシングできないときは誤操作の可能性が高い。装置の操作,使い捨てパッドの位置や皮膚への密着が確実か再確認する。それでも捕捉できないときは,直ちに経静脈ペーシング挿入の準備を行う。
□ペーシングに伴う疼痛に対しては,適宜鎮静薬(プロポフォールやミダゾラム)を使用する。
□モニター装着後に,全例で12誘導心電図を施行することが望ましい。
□12誘導心電図でⅢ度(完全)・高度あるいはモビッツ型Ⅱ度房室ブロックを鑑別する。
□Ⅲ度房室ブロックおよびモビッツ型Ⅱ度房室ブロックの心電図波形を示す(図2)。心電図の解釈については成書を参照。
□ST上昇型急性心筋梗塞に合併した徐脈のこともあるので,ST-T部分もしっかり読む。
□余裕があれば胸部単純X線撮影を行い,肺うっ血の有無を確認する。これは症候性徐脈の徴候の1つである。
□わが国では非常に稀であるが,心移植後患者においては迷走神経刺激が欠如しているので,アトロピンの使用はより注意深く行う。
□使い捨てパッドは除細動用の外用パドルを外さないと除細動器本体に接続できないため注意する。
□心電図モニターと除細動器の心電図電極がそれぞれ患者に接続されるのでコード類の整理整頓に努める。
□低体温に伴う徐脈はペーシングにより心室細動(VF)に移行しやすいので禁忌である。
□ペーシング中にVFや無脈性心室頻拍(pulseless VT)に移行した場合は直ちに胸骨圧迫を開始し,使い捨てパッドを用いてそのまま除細動を施行する。
□経皮ペーシングは患者に苦痛(電気刺激による疼痛)を与え,体外装着で不安定性が高いため,血行動態が安定したら早急に経静脈ペーシングに切り替えることが必要である。
□急性心筋梗塞を起こしている場合は緊急で冠動脈造影,経皮的冠動脈形成術が必要になる。
1) 日本蘇生評議会, 監:JRC蘇生ガイドライン2015(第2章). 医学書院, 2016.
2) 渋沢崇行, 他:救急医. 2015;39(1):41-52.
3) 渋沢崇行, 他:消外. 2012;35(10):1497-500.
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