□胸部外傷の症例数は,日本外傷データバンク(Japan Trauma Data Bank)登録上,下肢損傷,頭部損傷についで約14%である。解剖学的重症度では中等症以上が8割を占める最も重症度の高い身体部位である(図1・2)。
□胸部には,vital organである心臓,肺,さらに大血管など生命維持に直結する重要臓器が存在している。よって外傷後短時間で生命を脅かし,他部位よりも緊急度の高い病態が起こりうる。
□胸部外傷の約8割は疼痛制御や胸腔ドレナージ,気管挿管を含めた呼吸管理などによって治療できる。約2割が開胸術を要し,うち約1/4が緊急室開胸術(蘇生開胸術
emergency room thoracotomy:ERT)が必要となる。
□初期診療では外傷初期診療ガイドライン(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care:JATEC)に基づき,生理学的徴候よりprimary survey(PS)と蘇生を行い,バイタル安定が確保できればsecondary survey(SS)へ移行して解剖学的な観点から治療の必要な損傷を検索する。
□PSにおいて短時間で致命的となりうる胸部外傷は,①気道閉塞(気道出血),②緊張性気胸,③開放性気胸,④フレイルチェスト,⑤大量血胸,⑥心タンポナーデである。
□SSにおいて,見逃すと生命を脅かしうる胸部外傷は,①気胸,②血胸,③肺挫傷,④気管・気管支損傷,⑤鈍的心損傷,⑥大動脈損傷,⑦横隔膜損傷,⑧食道損傷などである。
□AMPLE:A(アレルギー歴allergy),M(服薬中の薬剤 medication),P(既往歴・妊娠 past history & pregnancy),L(最終食事 last meal),E(受傷機転・現場状況 event & environment),を確認する。
□外傷原因,受傷機転とともに,追突時の速度や墜落現場の高さなどから受傷エネルギーの推定に努める。外傷原因としては,不慮の事故,自損,第三者行為,労災など,受傷機転としては,鈍的外傷として交通事故,墜落,転落,転倒,挟圧,鋭的外傷として刺創,切創,銃創,杙創(よくそう)などがある。
□鈍的胸部外傷の臓器損傷メカニズムは,直達外力,介達外力,内圧の急上昇,急減速からの慣性の力による剪断力(胸部大動脈損傷,気管損傷など)が挙げられる。
□胸部外傷は,気道の異常(A),呼吸の異常(B),循環の異常(C),中枢神経の異常(D)のいずれの病態も起こしうる。
□致命的となりうる重篤な病態に,低酸素血症,閉塞性ショック,循環血液量減少性ショック,鈍的心損傷からの心原性ショックがある。また,稀な病態として心臓震盪(commotio cordis)がある。
□胸郭尾側には肝や脾の腹部臓器が存在するため,腹部合併損傷に注意する。
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