□肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)は深部静脈血栓に起因する血栓性塞栓子により肺動脈が閉塞する疾患である。急性肺血栓塞栓症(acute pulmonary thromboembolism:APTE)と慢性肺血栓塞栓症(chronic pulmonary thromboembolism:CPTE)に分類され,またCPTEの経過中に急性の血栓塞栓症症状をきたす遷延性肺血栓塞栓症(recurrent PTE)がある。
□APTEの血栓形成の3大要因は,血流の停滞,血管内皮障害,血液凝固能の亢進である。
□先天性危険因子には,プロテインC欠乏症,プロテインS欠乏症などがあり,後天性危険因子には,手術,肥満,安静臥床,悪性腫瘍(Trousseau症候群),薬剤(経口避妊薬,エストロゲンなど),長距離旅行などがある。
□CPTEは血栓溶解療法,抗凝固療法にもかかわらず,6カ月以上にわたり肺血流分布や肺循環動態が不変である病態である。中でも肺高血圧をきたす慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hyper-tension:CTEPH)は特に予後が悪く,厚生労働省特定疾患治療研究事業対象疾患として認定されている。
□わが国でのPTEの発症頻度は欧米の1/8程度と推定されるが,高齢化,食生活の欧米化,診断率の向上により増加している。
□急性の呼吸困難や胸痛,冷や汗,失神など非特異的なものである。そのため,診断にはこの疾患を疑うことが重要である。
□血液ガス分析ではI型呼吸不全,心電図では急性右室負荷所見を呈する。
□胸部X線写真では肺門部の肺動脈影の拡大や肺透過性の亢進を認めることもあり,肺梗塞をきたせば楔形の浸潤様陰影を呈する。
□心エコー検査では右心負荷所見(右室拡張や三尖弁逆流,心室中隔の扁平化や偏位)を認める。並行して下肢静脈エコーで深部静脈血栓症(deep venous thrombosis:DVT)の検索も行う。
□multi-detector CT(MDCT)による肺動脈造影CTは確定診断のゴールドスタンダードである。
□肺換気血流シンチグラフィーでは,換気異常のない部位での区域以上の楔型血流欠損を見る。D-ダイマーが正常の場合には高い確率でAPTEを否定しうる。
□徐々に増強する労作性呼吸困難が特徴であり,進行すると右心不全症状がみられる。
□胸部X線写真では肺動脈影の拡大,心陰影拡大を見る。
□A-aDO2開大を伴う低酸素血症を呈し,心電図や心エコー検査で右室負荷所見を認める。
□肺換気血流シンチグラフィーで区域性の血流欠損を呈し,CTEPHでは肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)など,他の肺高血圧症との鑑別が必要となる。
□CTEPHの確定診断には,肺動脈造影や造影CTでのCTEPH所見を呈すこと,右心カテーテルで平均肺動脈圧の上昇(25mmHg以上),肺動脈楔入圧が正常(15mmHg以下)を確認する1)2)。
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