□過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)とは,腹痛もしくは腹部不快感とそれに関連した便通異常が慢性再発生に持続する一方で,その症状が通常の臨床検査で検出される器質的疾患によるものではないという概念の症候群である1)。
□わが国におけるIBSの有病率は人口の14.2%,1年間の罹患率は1~2%,内科外来患者の31%と高頻度である2)。
□IBSの中心的な病態生理は脳腸相関(brain-gut interactions)であり,内臓知覚(visceral perception)過敏,下部消化管運動亢進,ストレス応答・心理的異常から構成される1)。
□最近解明されてきた異常として,下部消化管粘膜の微小炎症,粘膜透過性亢進,リスク遺伝子,腸内細菌の関与がある2)。
□腹痛が,最近3カ月の中の1週間につき少なくとも1日以上は生じる。
□腹痛は,①排便に関連する,②排便頻度の変化に関連する,③便形状(外観)の変化に関連する,3症状の中の2症状以上を伴う。
□症状の開始が6カ月以上前であり,かつ,基準を満たす期間が3カ月以上である。これらは慢性の病態であることを意味する。
□診断は国際的診断基準のRome Ⅳ3)で行うが,それは以上の症状からなる。
□このほかに,腹部不快感,腹部膨満感,便意切迫感,残便感,腹鳴,ガス,粘液の排泄などがみられる。
□IBSでは,血便,発熱,体重減少はみられない。
□不調時の便形状によって,便秘型(IBS-C),下痢型(IBS-D),混合型(IBS-M),分類不能型(IBS-U)に分類する(表1)。
□便形状は,Bristol Stool Form Scaleによりタイプ1~7にわけられる(表2)。
□最近3カ月間に腹痛と便通異常を主訴とする患者に遭遇したとき,①警告症状・徴候,②危険因子の有無を評価し,あれば大腸内視鏡検査もしくは大腸造影検査を行う。
□警告症状・徴候とは,器質的疾患を示唆する症状・徴候であり,発熱,関節痛,粘血便,6カ月以内の予期せぬ3kg以上の体重減少,異常な身体所見(腹部腫瘤の触知,腹部の波動,直腸指診による腫瘤の触知,血液の付着など)が該当する。
□危険因子とは,50歳以上での発症または患者,大腸器質的疾患の既往歴または家族歴である。患者が消化管精密検査を希望する場合にも精査を行う。
□警告症状・徴候と危険因子がない場合でも,血液生化学検査,末梢血球数,炎症反応,尿一般検査,便潜血検査,腹部単純X線写真で器質的疾患を除外する。
□このほかに,上部消化管内視鏡検査もしくは上部消化管造影,腹部超音波,便虫卵検査,便細菌検査,乳糖負荷試験,小腸造影,カプセル内視鏡,腹部CTなどが必要になることもある。
□鑑別かつ除外が必要な消化器疾患として,大腸癌をはじめとする消化器の癌ならびに炎症性腸疾患がある。また,乳糖不耐症,microscopic colitis,慢性特発性偽性腸閉塞,colonic inertiaなどが挙げられる。甲状腺疾患をはじめとする全身性の疾患も早期の鑑別が必要である。
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