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遺伝性大腸癌(FAPならびにLynch症候群)[私の治療]

No.5261 (2025年02月22日発行) P.42

武藤倫弘 (京都府立医科大学大学院分子標的予防医学教授)

石川秀樹 (京都府立医科大学大学院分子標的予防医学特任教授)

登録日: 2025-02-21

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  • Ⅰ.家族性大腸腺腫症

    家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis:FAP)は,主に大腸にポリープ(腺腫)が多発する常染色体顕性(優性)遺伝性疾患である。大腸外病変として胃・十二指腸腺腫や胃底腺ポリポーシス,腹腔内デスモイド,甲状腺癌,骨腫などを認めることが多い。わが国の患者数は約7300人と推定されている。FAPは,大腸に100個以上の腺腫を有する,大腸の腺腫の数が10~100個未満であっても本疾患に矛盾しない家族歴を有する,または,APC遺伝子の病的バリアントが認められる場合に診断される。

    ▶診断のポイント

    大腸に腺腫が100個以上認められた場合,本疾患を強く疑う。両親のいずれかが本疾患に罹患している場合,子どもは50%の確率で遺伝している。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    診療ガイドラインに記されている大腸癌予防を目的とした治療法は,予防的大腸切除術のみである。手術は20歳代で行うことが多い。術後にも残存大腸や回腸囊に腺腫が発生することがあり,また術後はデスモイド腫瘍の発生リスクが高まるため,大腸切除後も残存腸管および全身のサーベイランスが必要である。

    最近になり,大腸内視鏡治療手技の進歩とともに,大腸切除をせずに内視鏡にて大腸ポリープを積極的に摘除することで大腸手術時期を遅らせたり,避けたりする手法が開発されてきた。また,令和4年度(2022年4月1日)からの診療報酬改定において,FAP患者に対する積極的大腸ポリープ切除術(intensive downstaging polypectomy:IDP)に対して,年に1回に限り5000点加算が認められた。

    胃・十二指腸腺腫に対しては,定期的な上部消化管内視鏡検査にて,腹腔内デスモイドや甲状腺癌に対しては,定期的な腹部・甲状腺超音波検査にて経過観察を行う。

    ▶治療の実際

    【大腸癌予防のために】

    一手目 20歳頃に予防的大腸切除術を行う。直腸に腺腫が少ない場合は,直腸を温存する結腸全摘回腸直腸吻合術を行う。直腸に多数の腺腫がある場合や定期的な通院が困難である場合には,大腸全摘回腸肛門吻合術を行う

    二手目 〈大腸切除術を患者が希望しない場合〉専門施設にてリスクを説明した上でIDPを行う。大きなポリープから摘除を始め,回収後に組織学的にがんの有無を確認する。がんを認めた場合の追加手術は,大腸全摘が原則である。禁煙,節酒,運動指導を行う

    【胃・十二指腸腺腫に対して】

    一手目 20歳頃までに上部消化管内視鏡検査にて,胃と十二指腸の腺腫の有無を確認し,その後は1年ごとに経過観察

    二手目 胃腺腫や十二指腸腺腫に対する内視鏡的摘除の治療方針はいまだ確定したものはない。胃腺腫は散発性胃腺腫と同様に対応。十二指腸腺腫に対し通電摘除を行うと穿孔のリスクがあるため,コールド・スネア・ポリペクトミーの使用も考慮

    三手目 〈内視鏡的治療が困難な場合や,がんを認めた場合〉膵頭十二指腸合併切除を検討するが,近年,膵温存十二指腸切除術を行える施設があるため,乳頭部への浸潤がない場合は,本術式も考慮

    【腹腔内デスモイドに対して】

    年に1回,腹部超音波検査にて腹部腫瘍や水腎症の有無について確認する。大腸切除術後には,水腎症が初発症状になることも多い。


    一手目 モービック10mg錠(メロキシカム)1回1錠1日1回(朝食後),非ステロイド性抗炎症薬が有効であるとの報告があるが,保険未収載

    二手目 〈処方変更〉抗エストロゲン薬(タモキシフェン),チロシンキナーゼ阻害薬(ソラフェニブ),化学療法薬(ドキソルビシン)などが有効であるとの報告があるが,保険未収載

    三手目 〈治療変更〉デスモイドの位置が神経や血管などを圧迫して生命に危険がある場合や高度の機能障害をきたす場合は外科的治療も考慮

    ▶専門家へのコンサルト

    IDPは多数のポリープを摘除する高度な内視鏡技術が必要なため,専門施設で行うのが望ましい。

    デスモイドの外科的摘除は困難な場合も多く,その治療により新たにデスモイドが生じるリスクもあるため,外科的治療の適否は経験豊富な専門家に相談すべきである。

    ▶患者への説明のポイント

    両親のいずれかがFAPの場合,16歳を過ぎた時点を目安に遺伝カウンセリングを行い,遺伝子検査(保険未収載)または大腸内視鏡検査を行う。18歳未満であれば小児慢性特定疾病の申請を行う。

    幼少期における遺伝子検査は,本人の自己決定権を侵害する可能性があり,生命保険加入が困難になる可能性もあるため,特に症状がない場合に限り,検査は16歳以上にするようにしている。

    腹腔内デスモイドは腹腔内手術後や妊娠後に発生することが多いため,腹部手術をした場合には期間をあけて妊娠するように指導する。

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