肛門直腸腫瘍は,いわゆる腺癌からなる直腸癌,痔瘻癌を含む肛門管癌と,扁平上皮癌からなる肛門癌に分類される。一般的な大腸癌のひとつである直腸癌はadenoma-carcinoma sequenceによりポリープががん化することで,痔瘻癌は長期にわたる痔瘻の炎症によって発生する。また,潰瘍性大腸炎やクローン病などによる長期にわたる炎症が原因で,直腸癌や痔瘻癌が発生する症例も増加傾向である。肛門癌は稀少がんのひとつであり,ヒトパピローマウイルスの持続感染との関連性が示されている。
直腸癌と痔瘻癌を含む肛門管癌は,内視鏡検査と生検による診断が基本となる。肛門腺由来のがんの場合は,肛門管内になだらかな隆起しか観察されないこともあるので注意が必要である。CTやMRIは,病変の進行度を確認するために有用であるのと同時に,特に痔瘻癌では粘液癌が多いため,MRIのT2強調画像で多胞性の囊胞様所見を認めることがある。
痔瘻癌や肛門癌は早期診断が困難であり,ムチン様分泌物や肛門部痛を認めた時点では進行がんであることが多いため,肛門診察時には悪性疾患の可能性を必ず念頭に置くことが重要である。また痔瘻癌が疑われる症例では初回での診断が困難であり,麻酔下肛門生検を繰り返し行うことが推奨される1)。
直腸癌や痔瘻癌は,手術による病変切除が治療の原則である。基本術式は,低位前方切除術や腹会陰式直腸切断術であり,TME(total mesorectal excision)またはTSME(total-specific mesorectal excision)が原則である。潰瘍性大腸炎の場合は,大腸全摘術が標準術式であり,部分切除術は同時性・異時性発がんの観点から推奨されない2)。他臓器浸潤が明らかな場合は,骨盤内臓器全摘術が選択される。ただし痔瘻癌は,切除断端陽性率が高率であることが報告されており,側方の切離縁の決定に難渋する症例が多いのも事実である。そのため,切除時には肛門周囲の皮膚切開から大きく行い,広範な組織欠損を生じる場合がある。一期的に閉鎖困難な症例では筋皮弁による再建を行う方法や,局所陰圧閉鎖療法を用いて早期での創閉鎖をめざす。
局所再発の観点から術前に化学放射線療法を行うことがある。しかし,生存率改善に関してのエビデンスは現時点で存在せず,性機能低下や腸管障害などの合併症にも留意する必要がある。適応は,T3以深またはリンパ節転移陽性症例であり,フルオロウラシルまたはカペシタビンの併用化学療法とする。オキサリプラチンやイリノテカン併用の上乗せ効果は示されていない。
痔瘻癌に対しては,粘液癌が多く化学放射線療法は有効性が乏しいとの報告がある一方で,根治切除不能の進行痔瘻癌が局所制御可能となった報告も存在する。しかし症例報告のみであり,当院では積極的には術前化学放射線療法は施行していない。
扁平上皮由来の肛門癌に対しては,化学放射線療法が標準治療として確立している。わが国においては,5-フルオロウラシルとマイトマイシンに放射線療法の併用が有効であることが報告されている3)。局所切除術は,T1,N0の高分化型がん,または括約筋を含まない選択されたT2,N0に適応となる。腹会陰式直腸切断術は局所再発または疾患が持続する場合に適応となる。
残り864文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する