□肘関節脱臼は肘関節の外傷時に生じ,靱帯損傷,骨折を合併することがあり,脱臼骨折の型で生じる頻度も高く,肘関節不安定症として日常診療上問題となる。
□10歳以下の小児ではMonteggia脱臼骨折(橈骨頭脱臼と尺骨骨折)をはじめ,最も多い脱臼箇所は肘関節である。
□成人では肩関節の次に肘関節脱臼が多い。肘関節脱臼には種々の合併損傷があるのが特徴である。
□立位が困難なほどの強い疼痛が症状の主たるものであるが,脱臼を整復すれば直ちに疼痛は寛解する。整復後は肘不安定症または続発する肘関節拘縮が機能的な問題となる。
□整復前後の単純X線正面像と側面像の2方向撮影が一般的である。fluoroscopy(イメージ)下で徒手ストレスを加えながら行う,dynamic(動的)な運動下での脱臼再現の診断が最も重要である。
□static(静的)な状況下での検査である。靱帯などに明らかに損傷が認められた状況で有力な情報が得られる。
□主に肘関節内側側副靱帯(medial collateral ligament:MCL)損傷の診断に必須である。骨挫傷(bone bruise),関節水腫,関節内遊離体の確認にも必要な検査である。
□正確な整復位の確認,小骨折合併の有無,靱帯剥離骨折の診断や関節内骨折,特に尺骨鉤状突起骨折,橈骨頭骨折の診断に必須の検査である。
□静的な肘不安定症の診断,すなわち肘関節の運動下での脱臼や不安定肘を診断しうる唯一の検査である。しかし診断学上,定量評価ができない,再現性,骨の輪郭がはっきりとらえにくいなどの問題点がある。
□以下のように分類される。
①後方脱臼(図):最も頻度が高い。
②前方脱臼:きわめて稀であるが小児に発症する。
③分散脱臼(divergent dislocations):橈骨頭の尺骨から脱臼と同時に腕尺関節も脱臼する。小児に発症する。
□非利き手側が60%受傷する。現在,新鮮屍体によるバイオメカニクス上,原則として以下の3つの受傷機転が証明されており1)~4),病態の基本である。
①内・外反ストレス損傷に伴う肘不安定症:手を身体の後方についた状態で肘関節外反を強制し,受傷する。外反ストレス損傷ではMCLと橈骨頭を受傷する。
②後方変位方向(肘関節単純後方脱臼)に伴う肘不安定症(posterior translation)
③後外側回旋メカニズムに伴う肘不安定症(postero-lateral rotatory mechanism)
□いずれの肘不安定症もある一定の静的な状況で再現されることは稀で,動的な運動過程で生じる。
①骨折を伴わない,靱帯損傷に伴う脱臼
□軟部組織損傷のみの損傷である。
②骨折を伴う肘関節脱臼
□橈骨頭骨折,尺骨鉤状突起骨折,上腕骨外側上顆部の剥離骨折が最も頻度が高い。terrible triad(肘関節脱臼,橈骨頭骨折と尺骨鉤状突起骨折を伴う複合損傷)をはじめとした,主として尺骨鉤状突起骨折を含む肘関節脱臼・不安定症は,結果として肘関節拘縮を残すことが多い。terrible triadは予後不良な組み合わせと言われている。
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