□わが国における双胎妊娠の頻度は,自然妊娠では0.6%(1/150)程度で,不妊治療を含めると1.1%(1/90)程度である。
□双胎妊娠の最多合併症は早産であり,40~45%が早産となる。また,妊娠高血圧症候群の頻度も上昇する。
□膜性診断ごとに予後が異なり,1絨毛膜双胎では胎盤吻合血管に関連する特殊な合併症(双胎間輸血症候群,胎児死亡に伴う急性胎児間輸血,無心体双胎など)が存在する。
□双胎間輸血症候群と無心体双胎では,胎児治療(胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術,無心体血流遮断術)が奏効するため,早期発見が大切である。
□多胎妊娠の合併症は多岐に及ぶが,ここでは1絨毛膜2羊膜双胎における重篤な合併症として合併症として双胎間輸血症候群(twin-twin transfusion syndrome:TTTS),無心体双胎(twin reversed arterial perfusion sequence:TRAP sequence),および一児死亡による急性胎児間輸血(intrauterine fetal demise:IUFD,acute feto-fetal hemorrhage:AFFH)について概説する。
□疾患概念:1絨毛膜双胎の共通胎盤で吻合血管を通じたシャント血流のアンバランスにより,双胎間(受血児,供血児)に慢性の血流不均衡が生じ発症する病態である。受血児は循環血液量が増加し容量負荷により,多血,高血圧,多尿,羊水過多,心不全,胎児水腫をきたし,最終的には胎児死亡に至ることがある。また,供血児は循環血液量が減少し,貧血,低血圧,乏尿,羊水過少,胎児発育不全,腎不全をきたし,最終的には胎児死亡に至ることがある(図1)。早期発症TTTSの無治療での予後はきわめて不良(生存率は10%未満)であり,神経学的後遺症の発症も多い。
□母体の症状は羊水過多による子宮増大や腹部膨満感,急激な体重増加,および口渇感である。
□胎児の症状は,受血児では羊水過多に加えて,心負荷所見を伴うため,心拡大,房室弁逆流,胎児水腫などを引き起こす。また,供血児は,羊水過少に加えて,循環容量不足から臍帯動脈拡張期途絶・逆流などを示す。
□疾患概念:1絨毛膜双胎で一児の心臓が欠損(無心体)もしくは痕跡的である場合,共通胎盤で動脈-動脈吻合が存在すると,健常児(ポンプ児)から拍出された血流が胎盤を介さずに動脈-動脈吻合を経由し,もう一方の児の臍帯を逆行性に流れ(twin reversed arterial perfusion:TRAP)無心体へ流入する。無心体はポンプ児により養われることとなるため,心臓がなくても増大する(図2)。また,ポンプ児は心負荷により心不全および胎児水腫を発症し予後不良となる。
□母体に特有の症状はない。
□胎児死亡と思われていた児が成長することで発見されることが多い。
□無心体は浮腫状の体幹を呈し,一部嚢胞状や浮腫状の変化をきたす。様々な形態を示すが,脊椎や下肢は存在するが頭部や上肢は欠損していることが多い。
□ポンプ児は悪化すると心不全徴候をきたし,心拡大や胎児水腫を認める。
□疾患概念:原因によらず1絨毛膜双胎で一児が胎児死亡となった場合は,胎盤での吻合血管を介して生存児から死児へ急速に血流移動を引き起こし(acute feto-fetal hemorrhage),生存児の死亡もしくは急性虚血性変化による脳や全身の臓器障害を引き起こす可能性がある。
□生存児の胎児死亡は10~30%,神経学的後遺症は10~25%であり,障害なき生存は50%程度とされている。急性の血流移動は胎児死亡前から引き起こされ,死亡時にはこの状態は既に完成されていると考えられている。
□母体に特有の症状はないが,胎児死亡により胎動減少感を訴えることがある。
□胎児の症状は,発症(一児の胎児死亡)直後では,まったく正常から,急性胎児間輸血により貧血を引き起こし,頻脈や徐脈となっていることがある。
□超音波検査により診断を行う。
□1絨毛膜双胎に加えて,羊水過多(最大羊水深度≧8cm)と羊水過少(最大羊水深度≦2cm)を同時に満たしたものをTTTSと診断する。
□TTTSと診断したら,重症度評価を行う(表)。
□受血児は静脈系の血流異常を伴うことが多く,また房室弁逆流や肺動脈狭窄も高率に認める。
□供血児は動脈系の血流異常を伴うことが多く,特に臍帯動脈の拡張期血流異常を高率に認める。
□超音波検査により診断を行う。
□無心体の臍帯動脈が通常とは逆行性に胎盤から無心体へ拍動する動脈波形が確認できれば診断は確定する。
□ポンプ児に心不全徴候が現れた場合は,心拡大,胸腹水,胎児水腫,房室弁逆流などを示す。
□無心体への血流は自然に消失することがある。
□超音波検査により診断を行う。
□一児の胎児死亡を確認したら,死亡の時期を推定する。骨重責や皮下浮腫などにより推定する。
□健常児の胎児心拍を確認する。中大脳動脈最高血流速度を計測し,胎児貧血の有無を推定する。胎児貧血を認める場合は予後が不良となることが多いと考えられている。
□胎児脳室拡大などを確認する。脳室拡大や水頭症,脳萎縮などの所見を認めた場合は,神経学的予後不良である可能性がある。
1190疾患を網羅した最新版
1252専門家による 私の治療 2021-22年度版 好評発売中
PDF版(本体7,000円+税)の詳細・ご購入は
➡コチラより