□ここでは,妊娠に合併した鉄欠乏性貧血,および特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病について述べる。
□WHOの貧血判定基準では,妊娠中の貧血は,血色素量(Hb)11g/dL未満,ヘマトクリット値(Ht)33%未満と定義されている。鉄欠乏性貧血は,妊娠中の貧血で最も高頻度である。
□特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病〔idiopathic(immune)thrombocytopenic purpura:ITP〕には,急性型と慢性型とがある。妊娠合併症として問題になるのは慢性型であり,以下慢性ITPについて記述する。
□ITPは,自己の血小板に対する抗体が産生され,その抗体が付着した血小板が網内系細胞により破壊され,さらに血小板産生障害も加わり,血小板減少をきたす自己免疫疾患のひとつである。
□ITP合併妊娠の大きな問題点は,母体の出血性合併症,および児の重篤な血小板減少とそれによる出血性合併症である。
□妊娠中では鉄の必要量は増加しており,鉄欠乏状態になりやすい。ただし,妊娠中期以降では,生理的な血液稀釈があるため,HbやHtだけでは病的貧血の診断はできない。鉄欠乏状態では,平均赤血球容積(mean corpuscular volume:MCV)が低下するため,妊婦の鉄欠乏状態を判定する上で,HbだけでなくMCVの測定が有用である1)。
□Hbが9.0~11.0g/dLと軽度低値でMCVが正常な場合は,鉄欠乏状態はないが生理的血液稀釈が著しい状態だと考えられる。鉄剤投与を開始するよりも,まずは鉄含有量の多い食物を摂取するよう食事指導して経過をみる。MCVが85μm3未満と低値を示す場合には,鉄欠乏状態と判断し,鉄剤投与を考慮する。
□Hbが9.0g/dL未満でMCVが正常な場合は,鉄欠乏性貧血と巨赤芽球性貧血の混在や鉄欠乏性以外の貧血の可能性を考慮する。MCVが低値の場合は,鉄欠乏性貧血と診断し,鉄剤投与による積極的な治療を行う。
□血小板数減少(10万/μL以下)があり,骨髄巨核球数は正常ないし増加,赤血球および白血球は数・形態ともに正常で,血小板数減少をきたしうる各種疾患を除外して診断される。血小板に付着している抗体はplatelet associated IgG(PAIgG)と呼ばれ,病態を反映して変動することが多く,活動性の指標として有用である。
□皮膚・粘膜の小出血斑,歯肉出血,鼻出血,下血,過多月経などの出血傾向が認められるが,無症状で経過し,妊娠初期検査で血小板数減少を指摘されて初めて判明する場合も比較的多い。
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