分娩の保険適用化についての議論が進んでおり、反対する声も聞かれますが、分娩の保険適用化自体は既定路線のようなので、反対意見を言っても非生産的です。
そこで、保険適用化することで、何がどう変わるのか、もし弊害があるとしたらどう対処するのがよいのか、考えてみたいと思います。
まず、分娩費用が値上がりしているため、保険適用化により妊婦さんの自己負担を軽減する、と言われていますが、現状、分娩費用は地域や施設によりかなり差があります。地方では今でも自己負担がほとんどなく、むしろ保険診療となると自己負担が増えますが、自己負担が増えることはないように助成される制度設計が検討されているようです。
もちろん妊婦さんの立場からすると安いに越したことはないのですが、少子化により分娩数は年々減少しています。日本は周産期死亡率が世界的にもとても低く、その安全な周産期医療を維持するとなると、分娩数が減少してもそれに比例して維持費用が下がるわけではありません。分娩数が少なくても、医師や助産師さんが毎日当直をする必要があります。つまり、分娩数が減るとともに、むしろ1件当たりの費用は上がるのが自然です。
保険適用化により医療機関は現状よりも経営が圧迫されます。保険適用化により医療の質が向上、均一化されるのでは、とも聞かれますが、医療レベルを維持するだけの収入がなければ、むしろ質は下がります。診療報酬が一律となることで、サービスを提供する余裕、+αのサービスがなくなるという意味で「均一化」はされるかもしれません。
1件当たりの分娩費用が上がるどころか下がり、医療レベルも維持する、となると、解決策は「集約化」です。1施設当たりの分娩数を多くすることで合理的に周産期医療を維持する。そうなると、近くに分娩施設がなくなる、という地域もあると思います。
自己負担なく出産したい、行政も支出を削減したい、でも近くで産みたい、すべてを叶えることは困難です。
近くに分娩施設がないことについては、お産が近づいたら近くに滞在する、という方法で対応できますし、既に実施している地域もあります。
保険適用化の流れがもう後戻りしないのであれば、安全な周産期医療を維持するために集約化を避けては通れません。すなわち、自分の町ではお産ができない、という地域も出てくる、そのことを日本中が受け入れなければなりません。
稲葉可奈子(産婦人科専門医・Inaba Clinic院長)[保険適用化][集約化][医療レベルの維持]