編集: | 竹内良平(さいわい鶴見病院関節外科センター センター長) |
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判型: | AB判 |
頁数: | 144頁 |
装丁: | カラー |
発行日: | 2022年12月10日 |
ISBN: | 978-4-7849-6950-0 |
版数: | 第1版 |
付録: | 電子版付き |
膝周囲骨切り術(around knee osteotomy;AKO)は、膝関節治療を専門に行う医師の間では一般的になってきた言葉である。
遡れば、1960年代に米国のJP. JacksonやMB. Coventryらが報告した手術法であり、それぞれdistal tuberosity tibial osteotomy(DTO)、high tibial osteotomy(HTO)として現在に至っている。その後、1970〜80年にかけて腓骨の処置が必要なく、簡便にアライメントを矯正できるopen wedge HTO(OWHTO)がJ. DebeyreやPH. Hernigouによって報告されると、膝骨切り術の趨勢はOWHTOへと移った。これらの手術は、膝関節の近傍で内反した脛骨をその変形部位で骨切りを行って、膝関節の内側に集中した荷重の一部を外側に移すことを目的とした手術方法である。現在の本邦では、さらに複数の手術法が考案されており、総称して「脛骨近位骨切り術」と呼ばれる。
しかし、20年前にはHTOは伝統芸能とまで揶揄される立場に衰退した暗い過去がある。人工膝関節全置換術(total knee arthroplasty;TKA)の発展とともに、煩雑な手術である膝骨切り術は敬遠され始めた。さらに、長期間の入院を要する骨切り術は社会の風潮に則さない、好ましからざる手術とみなされるようになった。学会や研究会のAKO関連のセッションでは聴衆のほとんどは発表者およびその関係者であり、場末の小さな会場で早朝あるいは終了に近い時間帯でせいぜい20〜30名程度、関係演者の口演が済むと一斉に聴衆が入れ替わったことが思い出される。
その後、日本人の平均寿命が延び、健康意識の増進とともにスポーツ活動を継続する高齢者が増えてきた。また同時に再生医療の台頭に伴って関節を温存し、自身のライフスタイルの継続を希望する患者が増えてきた結果、関節温存手術が見直されるようになった。インプラントや手術方法の改良により、TKAの良好な長期成績が得られるようになった反面、スポーツ活動や生活習慣において制限のあるTKAを受け入れられない層も増えてきた。現在の本邦における年間の手術件数は、TKAが約100,000件、膝骨切り術が10,000件を超えているが、絶滅寸前の時期に骨切り術が700件であったことに比べると、約15倍に増え、今後もさらに増えることが期待される。
本書の内容は中・上級者向けで読み応えがあるが、幅広い方々に一読してもらい一般的なOWHTOをマスターした上で実践頂くことをお勧めする。
膝前十字靱帯(anterior cruciate ligament;ACL)損傷を放置して膝の不安定性が長期間継続すれば、変形性膝関節症(osteoarthritis of the knee;膝OA)が発症することは知られている。石川大樹先生には自らの先行研究によるデータを基に、ACL再建とHTOの併用手術の有無、手術の順序、そして併用手術の実際を解説して頂いた。
内側半月板後根損傷(medial meniscus posterior root tear;MMPRT)を放置すると、膝OAが進行することは過去の研究より明らかにされた。古賀英之先生には、MMPRT修復成功の秘訣とアライメント矯正について詳細に述べて頂いた。
本邦における進行した内側型膝OA患者の多くは、膝蓋大腿関節(patellofemoral joint;PFJ)の膝OAを伴うことが多い。このような症例に対しては、単にOWHTOによる内反矯正ではPFJの改善は得られない。髙原康弘先生には、スポーツ復帰も踏まえたhybrid closed wedge HTO手術の詳細について解説して頂いた。
OWHTO後、PFJの膝OA発生が報告されてから脛骨粗面下骨切り術(open wedge distal tuberosity osteotomy;OWDTO)の件数が増した。藤間保晶先生には、arc osteotomyを用いたOWDTOとそれに使用する代用骨内の早期骨形成促進についての工夫などを詳細に解説して頂いた。
大腿骨遠位および脛骨近位の関節面角に異常があるケースや活動性が高く高度内反変形膝を有する患者にはdouble level osteotomy(DLO)が選択されることがある。本手術は上級者向けであり、多くのピットフォールが存在する。また、2つの手術の組み合わせから適応範囲も広がるが、Ahlbäck分類4、5の症例ではTKAも考慮した選択が必要である。大澤克成先生には、DLOの術前計画から注意点、短期成績までを述べて頂いた。
進行した膝OA症例ではjoint line convergence angle(JLCA)が大きくなり、さらに内反角度が強くなる。このような症例では脛骨関節面の骨性摩耗が強く、HTOなどの関節外矯正手術では不十分であることが多い。衣笠清人先生には、関節内矯正骨切り術の代表である脛骨顆外反骨切り術(tibial condylar valgus osteotomy;TCVO)をその理論とともに詳しく解説して頂いた。
本書をご精読された先生方と学会、研究会の場で議論できる日を楽しみにしています。
さいわい鶴見病院関節外科 関節外科センター長
竹内良平
下記の箇所に誤りがございました。謹んでお詫びし訂正いたします。