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医業経営ツールボックス 経営編 Vol.8

◆Vol.8 2階建診療所の1階・2階分割貸し

35年盛業中の内科診療所です。20年前に鉄筋2階建、1階を診療スペース、2階院長室・事務室で建替えを済ませましたが、高齢のため引退も念頭に規模を縮小し、自院は1階のみを使用、2階部分を別な科目のドクターに医院向けとして賃貸を考えています。可能なものでしょうか?
面積は、1階40坪・2階30坪です。駐車場は5台です。

不可能とは断言できませんが、多額の改装費用が必要になる場合が多いのでは…。
1・2階それぞれの入口、2階へ続く内階段の使用、医療機器の搬入・設置・電力容量、水回りの確保、エレベーターなしの2階の利便性など、問題点が挙げられます。(ただし、20年前の建替え時、1・2階分割を想定した設計を行っていれば対応は容易な場合も)

ご質問の場合、建物の構造の詳細が不明な部分がございますが、一般論として考えられる問題を列記いたします。

(1)1・2階で開設管理者が別な医療機関の場合、第一に入口の問題が考えられます。
現状の1・2階を1階診療所/2階院長室・事務室等でご利用の場合、一般的には医院入口は1階のみと考えられます。1・2階を分割し別々な医療機関として開設するためには、各階に独立した入口が必要となります。
ご質問の建物の利用状況から推察いたしますと、一般的には外部から2階への直接の入口が設置されていないと思われます。その場合、1階診療所から2階への内階段ではなく外部に出入口を設置する改築が必要となります。
もし、2階からの非常階段や2階への別階段入口が設置されている場合は、その非常階段や入口を改装する方法で出入口が確保可能となりますが、その位置がどのような場所かは問題になります。建物の裏手等に設置されていて公道に面していない場合は、クリニックの入口としては難しい点が多くなります。敷地の裏側の暗い入口は医療施設としては、視認性の低さやイメージの点で、あまり好まれない場合が多いと思われます。

(2)2階へ続く内階段は基本的に使用できなくなる場合が多いとお考えください。
1・2階別々な医療機関を開設した場合、現在ご使用中の室内階段は基本的には閉鎖することになります。階段スペースがどこにあるのか、階段の位置によっては、1階部分は特に影響が大きくなることが問題となります。そのままでは、フロア中央に不自然なスペースが生まれたり、患者様やスタッフの動線に影響が出る場合も考えられます。
こちらも費用負担が発生すると同時に、院内の動線が患者様の負担とならないための十分な配慮が必要となります。

(3)医療機器の搬入・設置・電力容量に関わる留意点をお考えください。
診療科目によっては、医療機器に重量のかさむもの、大型のもの(天地・左右)、電力消費量が多いものなどが考えられます。
特に、天井高や間口に関しては、搬入・設置の折に問題となる事がありますので、検証が必要となります。参考までに天井高については2.4m以上が確保したい高さです。
また、電力に関しては、契約容量の変更も必要となる場合があります。間口に関しては、搬入する機材により異なりますが、一定のスペースを確保できることが条件とお考えください。

(4)水回りの確保の点が懸念されます。
築20年の場合、トイレは1・2階それぞれ確保されていると思われますが、診療科目によっては、他の水回り工事が必要となります。この点について、医療ビルと言われ基本的な医院仕様の形態が整っている競合物件が多い現在では、借主に内装費用全額負担での賃貸は難しい時代です。そのためオーナー負担費用の増加が予想されます。検討が必要です。
また、万一2階にトイレが設置されていない場合は、それ以上の費用が必要となります。

(5)エレベーターなしの2階診療所の好適科目は制限されると考えられます。
2階診療所の場合、面積での制限以外に診療科目で制限される場合がございます。
原因はエレベーターの有無です。現在の2階の利用方法から推測しますと、一般的にはエレベーターは設置されていないと考えられますので、整形外科・内科・小児科・眼科の開業は厳しくなります。また、他科でも高齢者の患者様にとっては、デメリットでしょう。

以上、5点を考えられる問題点として列記いたしました。
別々な医療機関への1・2階分割貸しは厳しいかもしれませんが、上記の問題をクリアできる建物であれば、可能性は全くゼロとは言えません。ただし、ご質問者の現状が引退を念頭におかれての分割貸し検討と考えると、改装に多額な費用負担をなさるよりも、引退に向けてより良い承継者探しに力を注がれる方向が、より現実的かと思われます。
築20年の物件であり同地で35年の実績がおありですので、今後も医療施設として、地域に貢献する医院としての存続がご希望かと推察いたします。
永年の実績と地域住民の方々との関係を理解して下さる承継者との出会いは、一つのご縁です。できれば閉院前にじっくりお探しいただき、一人でも多くの患者様を引き継ぎ可能なドクターにバトンタッチする方法が、引退後の医院有効活用への道かと思われます。
引退にあたりどのような方法が効果的か、引退時の留意点などについては閉院編で詳しくご紹介予定ですのでご覧ください。

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