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医業経営ツールボックス 経営編 Vol.15

◆Vol.15 医院での職員のメンタルヘルス管理

正規・契約・パートスタッフを抱える職員8人の開業医です。
メンタル系の問題で、突然の欠勤やスタッフとのトラブルが絶えない職員の件で悩んでいます。現在のところ患者様とのトラブルはありませんが、昨今の風潮から先々に不安を感じています。効果的な対処法や院内の体制作りなど、アドバイスいただきたいのですが。

転ばぬ先の杖として、メンタルヘルス不調の未然防止や職場環境改善のために、自院スタッフのストレスチェック体制作り、就業規則(労働協定)の見直しなど院内制度拡充を始めていただくことをお勧めします。

参考までに、現状での法制度、メンタル系の問題から発生するトラブルの事例、対処法を幾つかご紹介いたします。

1.現行法制度「ストレスチェック制度」
スタッフのメンタルに関するお悩みは、単純に解雇や契約解除などの手段で解決するものではなく、労災申請や労働争議などの問題まで発展する案件も耳にします。メンタルヘルス不調を未然に防止予防及び職場環境の改善などを常に求められる時代と言えます。
労働者が50人以上の事業者はストレスチェック制度施行により導入が義務づけられました。ご質問の職員数の場合は、努力義務として対応が推奨されています。しかし、実際には職員数に関わらずどこでも発生する問題と捉えての対応が重要と考えます。

- 分析ポイント -
スタッフの抱えるストレスの把握は雇用主として重要な責務です。
院内にストレスチェック制度の確立を行いましょう。職員50人以下の場合は、制度の規定通りまでは不要ですが、何らかのチェック制度導入をお勧めします。
ただし、職員の情報管理に関しては細心の注意を払うことは必須です。

● 参考資料(厚生労働省資料)
職場におけるこころの健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針
職業性ストレス調査簡易表

2.メンタル系の問題から発生するトラブル事例
「ストレス」について、「ひと」はどの程度をストレスとして負荷を感じるか、受ける側の体調・環境・経験などにより大きく異なりますので、客観的事実の積み重ね以外判断が難しいと言わざるをえません。
しかしながら、現状はメンタルの不調を訴え長期休職・訴訟に至る事例があとを絶ちません。原因とされる当事者は「そんなつもりはなかった」という答弁しかできない事例も多く見られます。では、そうならない為に何が必要か。医療系のメンタル不調による事例を幾つかご紹介しながら、身近にできる対応法の一例をご提案します。

-「メンタル不調を訴えるスタッフの主張」事例と対応例 -
(1)過重労働が原因
院内シフト再検討は急務となりますが、主張に対して客観的な勤務状況・スタッフへの聞き取り、勤務状況比較のために自院の一定基準を提示できる規定を準備しておくことをお勧めします。その上で、本人の能力・充分な面談を行い解決の糸口を探すことが重要となります。残念なことに労災認定などの問題に発展する場合もありますので、労働基準法に抵触していないかの確認は重要です。

(2)セクハラ・パワハラ・同僚とのトラブルが原因
医療現場の特色から、職業意識から派生する無意識な言動が思わぬトラブルを引き起こすことがあります。常日頃からの院内状況把握は最重要です。
セクハラ・パワハラを原因としてうつ病を発症したとして、労災認定を求められる事例もあります。
特にパワハラに関しては、業務上の叱責・指導(罵倒・大声など)が受忍の限度を超えているものか、日頃から職員への指導も重要です。
また、同僚とのトラブルは、各人の密な連携で成り立つ職場環境を考えると大きなストレスの要因となります。世代間格差・コミュニケーション力不足、お局体質(ボス)スタッフの存在によるトラブルが原因などありますが、こちらも日頃からの院長の客観的判断は重要となります。

● 参考資料(厚生労働省資料) 職場における心理的負荷評価表

(3)モンスターペイシェント対応が原因
医療現場の特色として重要な問題です。 ただし、こちらは上記(1)(2)とは異なり原因が職員以外に存在する点で、クレーム対応マニュアル・接遇マナーの徹底などにより効果が期待できるものです。
接遇については、クレーム対応の基本である傾聴と共感を患者様に対して感じることを徹底し、患者様の不安・コンプレックス・こだわり・思い込みを汲み取ろうとする姿勢を身につける接遇訓練は、大変効果的と思われます。
その上で、情報の共有・トラブル時の対応サポート体制を確立することをお勧めします。

3.院内規定の整備によるトラブル回避法
長期にわたる欠勤・院内トラブル発生時の指導体制確立のために就業規則や労働協約等の整備を行いましょう。特に勤怠管理・解雇・契約解除要件の明示は重要です。

● 参考資料(厚生労働省資料) モデル就業規則」他

解雇や契約解除については、各種規定の要件を満たすことが要件ですが、トラブルになる場合、多くは形式上の要件は満たしているが段階的に充分な指導・聞き取りが行われた結果であるかが重要となります。
この点で、職員数50人未満の事業者でもメンタルヘルスチェック制度や、職員10人未満の事業者でも就業規則と同様な独自システムを導入することは、健全な医院経営には有意義であると言えます。

なお、就業規則等の整備などについては、医業専門に扱う社会保険労務士さんへの相談や、各種セミナーなどの参加も有益です。

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