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医業経営ツールボックス 経営編 Vol.10

◆Vol.10 クリニックでの在宅医療兼業について

内科クリニックを開業中(医師1人)ですが、訪問診療を希望する患者様が増え、外来数減少傾向(来患年齢層は高齢者の比率が30%程度)も見られるため、外来と在宅医療の兼業を検討中です。
診療報酬の点からは、在宅療養支援診療所としての運営がベストと考えますが、採算面と運用面でどうなるか不安もあります。アドバイスをお願いします。

院長1人体制でのいきなりの外来と在宅療養支援診療所の兼業は、ハードルが高いかと思われます。但し、他院との連携や非常勤医師やスタッフ採用などにより対応可能であれば、患者様のニーズに応える方法もゼロではありません。

まず、在宅療養支援診療所認可についてご紹介します。

●在宅療養支援診療所 認可要件
 ・直接担当する医師または看護師が、患者およびその家族と24時間連絡を取れる体制を維持すること。
 ・患者の求めに応じて24時間往診の可能な体制を維持すること。
 ・担当医師の指示のもと、24時間訪問看護のできる看護師あるいは訪問看護ステーションと連携する体制を維持すること。
 ・緊急時においては連携する保険医療機関において検査・入院時のベッドを確保し、その際に円滑な情報提供がなされること。
 ・在宅療養について適切な診療記録管理がなされていること。
 ・地域の介護・福祉サービス事業所と連携していること。
 ・年に一回、在宅で看取(みとり)した人数を地方厚生(支)局長に報告すること。

上記の要件を満たした場合、地方厚生(支)局長への届出により認可されます。
ただし、ご質問のような外来と兼業で医師1人体制での24時間対応運営は、かなりハードになることが予想されます。参考までに、在宅療養支援診療所医師の24時間体制への負担に関するデータ(図1)をご紹介します。結果は2人以下での負担感は80%を超えています。長く安定した運営を目指すには、医師3人以上が理想的と言えるようです。人件費増を補える自院なりの外来と在宅医療サービスの運営バランス考慮した検証が必須となります。


では、現状の患者様ニーズ、来患数減少に対応可能な運営方法と留意点をご紹介します。

(1)在宅療養支援診療所として認可を受け、外来と兼業
前段でご紹介したアンケート結果から、無理のない運用を行うために、医師・看護師数の確保が可能な場合にお勧めします。経費面での検証は充分に行って下さい。尚、こちらの形態を選択できる場合、機能強化型在宅支援診療所への拡大も視野に入れての計画も診療報酬面ではポイントになります。

(2)在宅療養支援診療所認可を受けず、外来と在宅医療を兼業
一定の曜日・時間を設定し、自院に通院していた患者様等をメインに、在宅医療サービスを提供する形態です。24時間体制での対応が困難な診療所で在宅医療を行う場合に多く見られます。この場合でも、緊急呼び出しも想定し、無理のない訪問回数を設定することはポイントです。
下記(図2)は、訪問診療を行う時間帯の形態別データと訪問診療に要する時間です。訪問時間・曜日設定の資料としてご紹介します。

(3)在宅医療に取り組む他の施設と連携(在宅療養支援診療所認可)
複数の施設で緊急・夜間の対応を分担する方法で、24時間対応を可能にし、自院の人件費増を抑えながら、在宅療養支援診療所として運営できるメリットがあります。
この場合、経営・理念等、ご自身と近いパートナーを選ぶことがポイントになります。ただし、この形態の場合、患者様情報共有に関しては、診療情報だけでなく生活環境・家族情報などを一本化したシステム構築が必要となります。この点での経費・連携方法をいかにするか、十分な検証が必須です。

以上が、在宅診療開始にあたって選択肢として考えられる形態ですが、全ての形態で共通に忘れてはいけないシステム構築があります。いわゆる「多職種連携」というシステムです。
在宅医療サービスを行う場合、さまざまな職種と情報を共有し連携する必要があります。歯科医師、調剤薬局、ケアマネージャー、リハビリ職、管理栄養士ほか、医療・介護系のさまざまな職種が関わります。視点・職務内容の異なる職種との適切な情報共有システムを抜きにしては在宅医療サービスは難しいものとなります。この点も、十分な検討をお薦めいたします。
2025年問題などを考えると、診療科目により差異はあるにせよ今後の診療所経営において在宅医療サービス対応について、検討が必要と思われます。
自院の来患者の分析(現状、10年後程度までの予測)、開業地の特性、資産状況を自ら検証なさることから始めていただくことをお勧めします。

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