近年の高齢化社会に伴い高齢者の急性膵炎の割合が増加している。高齢者では女性比率が高くなり,成因としては胆石性が最も多く,特発性,アルコール性の順となる。急性膵炎の所見では腹痛を認めにくく,炎症反応は低値のことがある。高齢者急性膵炎の治療においては,加齢に伴う身体機能低下に加え,併存疾患,合併症により難渋することが多い。膵炎の重症度を的確に把握し,刻々と変わる循環動態に対応して必要輸液量を調整し,主要臓器を積極的にサポートしていくことが重要である。
急性膵炎はアルコール性,胆石性,腫瘍性,自己免疫性など種々の要因によって生じる膵の急性炎症であり,急激な上腹部痛と圧痛,血中膵酵素値の上昇が特徴である。一般に中高年の男性に好発し,高齢者では比較的少ないとされていた1)。
しかし,近年の高齢化社会に伴い高齢者の急性膵炎の割合は増加している。また,高齢者では治療に難渋することが多く,重症化した場合,非高齢者に比べ予後不良とされている2)。高齢者急性膵炎の病態の特徴と背景因子を理解し,非高齢者との違いを診断・治療に反映させることは,日常診療においてきわめて有用である。
急性膵炎とは,膵酵素の膵内活性化により膵が自己消化をきたした無菌性急性炎症で,膵局所のみに炎症がとどまる軽症例から,多臓器不全を呈する重症例までその病態は多様である。膵内で活性化された膵酵素や二次的に産生された サイトカインなどの炎症性メディエーターが病態の重症化,特に多臓器障害への進展に密接に関与している。高齢者では侵襲に対して高サイトカイン血症が惹起されやすく,膵炎発症後,容易に多臓器不全へと移行していくことが予測される3) 。軽症膵炎は数日の絶食と補液で軽快し予後良好であるが,膵の炎症が全身に波及する重症膵炎では致死率が約8%である4)5)。
急性膵炎は増加傾向にあり,発生頻度は男性が女性の約2倍,ピークは男性で50歳代,女性で70歳代である(図1)。原因として最も多いのは,胆石とアルコールであり,男性ではアルコール性膵炎が多く,女性では胆石性膵炎が多い。高齢者では女性比率が高くなり,成因としては胆石性が最も多く,特発性,アルコール性の順となる4)。また高齢者膵炎の原因として,頻度は低いものの膵・下部胆管腫瘍などの悪性腫瘍にも注意が必要である。
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