原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis:PBC)は,自己免疫学的機序による肝内小型胆管細胞の変性・壊死を主病変とした慢性肝疾患で,進行すると胆汁うっ滞性肝硬変に至る。中年以降の女性に好発するが,わが国の疫学調査では,2004年に約1:7であった男女比は,2018年には約1:4.3となり,相対的に男性患者が増加している。70~80%の患者では薬物治療が奏効し,長期予後も良好である。
病初期には長期間無症状であるが,わが国でのQOL調査では約30%に中等度以上の瘙痒症を認めた(症候性)。皮疹を伴わない搔破痕が診断の契機になることも少なくない。胆汁うっ滞による高脂血症合併例では,眼瞼黄色腫を認めることもある。進行すると,門脈圧亢進症の症状(黄疸,胃食道静脈瘤からの出血,腹水,肝性脳症)や,肝硬変に伴う臨床所見が出現する。肝細胞癌も肝関連転帰となる。
抗ミトコンドリア抗体(anti-mitochondrial antibody:AMA)が90%以上の症例で検出されるため,同時に血清胆道系酵素(ALP,GGTP)の上昇を認め,他疾患が臨床的に除外できれば,血清学検査のみで診断が可能である。AMA陰性PBC,ならびに自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis:AIH)や脂肪性肝障害の合併を疑う症例では,肝生検による病理組織診が推奨される。病理組織学的には,慢性非化膿性破壊性胆管炎と肉芽腫の形成を特徴とする。
ウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid:UDCA,13~15mg/kg/日)による肝庇護(利胆および抗炎症)療法が必要であり,胆道系酵素の低下が十分な症例では,進行抑制による長期予後の改善が期待できる。高脂血症薬であるPPARα作動薬ベザフィブラートにも生化学的改善効果が認められており,わが国では2000年頃よりUDCAの効果が不十分な症例に併用されてきたが,併用による長期予後の改善効果も報告されている。UDCA投与開始1年後の生化学検査に改善が乏しい場合は,併用を考慮する。症候性PBCでは瘙痒症,脂溶性ビタミンの吸収障害による骨粗鬆症に対する治療が重要である。
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