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胆囊周囲の囊胞(cyst)疑い例への対応

No.5218 (2024年04月27日発行) P.50

石川喜也 (東京医科歯科大学病院肝胆膵外科)

田邉 稔 (東京医科歯科大学病院肝胆膵外科教授)

登録日: 2024-04-27

最終更新日: 2024-04-23

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胆囊周囲の,7年間で成長した4cm×3cm大の囊胞(cyst)と思われる例について,以下をご教示下さい。
肝臓下面にcystと思われるものが存在し,少し胆囊を圧迫しています(MR検査で確認)。肝胆膵の採血,腫瘍マーカーはすべて正常で,F-CHO 270mg/dL(あまり食事が摂れていない状態)上昇がただひとつの異常です。
患者には痛みはなく,朝に右側腹部の平常時圧迫感のみで,日中は無症状。このままcystと思われるものが成長し,胆囊を圧迫すると,胆囊炎を発症するリスクや,圧迫による長期的なストレスで胆囊癌の発症リスクが上昇することはあるでしょうか。
また,そのようなリスクを避ける目的で,腹腔鏡下の直接穿刺を行うのは過剰な手技でしょうか。
東京医科歯科大学・田邉 稔先生にご解説をお願いします。(滋賀県 N)


【回答】

【胆嚢炎や胆嚢癌のリスクは高くないと考える。肝嚢胞のフォローを継続して頂きたい】

急性胆囊炎の原因として最も頻度が高いのは胆囊結石であり,90%以上を占めると報告されています1)。無石胆囊炎であれば,胆囊粘膜の虚血や胆汁のうっ滞などが発症に関与することが知られています。巨大肝囊胞によって肝内胆管が圧排され,胆汁のうっ滞に伴うと考えらえる肝胆道系酵素の上昇はしばしば経験しますが,肝囊胞の圧迫が原因と考えられる胆囊炎症例は経験がありません。胆囊癌の危険因子としては,膵・胆管合流異常のほか,肥満や高脂血症がガイドラインで挙げられています2)。胆囊結石による慢性的な胆囊粘膜の刺激も発癌に関与することが報告されていますが,肝囊胞による漿膜面からの圧迫であれば胆囊粘膜に影響を及ぼすとは考えにくく,本症例における発癌のリスクはきわめて低いと予想されます。以上より,胆囊炎や胆囊癌の予防目的としての肝囊胞に対する処置は不要と判断します。

一方,増大傾向の肝囊胞であれば,粘液囊胞性腫瘍(mucinous cystic neoplasm of the liver:MCN)や胆管内乳頭状腫瘍(intraductal papillary neoplasm of bile duct:IPNB)なども鑑別疾患として考慮しなければなりません。一般的にMCNは胆管と交通せず,IPNBは交通するとされていますが,良悪性の判断を含め,術前診断は必ずしも容易ではありません。筆者らは積極的に診断的穿刺(局所麻酔下,経皮経肝的に行っています。直接穿刺は囊胞内容液を腹腔内に散布してしまうリスクがあります)を行い,性状や細胞診,腫瘍マーカー,T-bil値を確認しています。腹部症状を伴う症例では試験的に穿刺ドレナージすることで,症状の改善が得られるか否かも確認することができます。

①乳頭状隆起(壁在結節),②囊胞壁の不整な肥厚,③囊胞内隔,④多房性囊胞,⑤穿刺・注入療法をしているにもかかわらず増大傾向,のいずれかを認める場合はMCNやIPNBを疑い,外科的切除すべきとの意見もあります3)。現時点の画像検査で①~④のような所見を認める場合は,専門機関に手術適応をご相談下さい。①~④の所見がなく,緩徐な増大傾向のみであれば,引き続きの経過観察をお願いします。さらに増大するようであれば,診断的穿刺や手術が検討されるかと考えます。

【文献】

1) Indar AA, et al:BMJ. 2002;325(7365);639-43.

2) 急性胆管炎・胆囊炎診療ガイドライン改訂出版委員会, 編:─TG18 新基準掲載─急性胆管炎・胆囊炎診療ガイドライン 2018(第3版).医学図書出版, 2018.

3) 上本伸二, 他:肝胆膵. 2004;49(5):624-7.

【回答者】

石川喜也  東京医科歯科大学病院肝胆膵外科

田邉 稔  東京医科歯科大学病院肝胆膵外科教授

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