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ベストセラーへの道─ その5 こわいもの知らずに考えた[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(204)]

No.4911 (2018年06月09日発行) P.65

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2018-06-06

最終更新日: 2018-06-05

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医学書というと、木で鼻をくくったようで一般の人には読みづらいもの、というのが相場である。逆に、売れている医学書、(というか医学書もどき本というべきかもしれないが)には、怪しげなものも多い。

『こわいもの知らずの病理学講義』は、そのどちらでもないニッチを狙う本だと自負していた。しかし、どうしてこんなに売れたのか。正直なところよくわからない。

幸運にも、多くのマスメディアで取り上げていただけたことは大きい。しかし、それだけで売れるほど甘いものではなかろう。憚りながら、やはりそれなりのニーズがあったに違いないと判断している。

病気は自分自身の体の大切なことなのに、学校では教えてくれない。一方、世の中に医療情報は氾濫している。正しく理解しておきたい、という潜在的ニーズがあったのだろう。不思議なことに、これまでそういう本はほとんどなかったのである。

ほんとうに「近所のおっちゃん、おばちゃんにもわかるように」というつもりで書いた。その責任上、でもないけど、近所で拙著をお配りした。おおむね、「よくわかった、勉強になった」と喜んでもらえた。

しかし、アマゾンのレビューやらでは、一般向けにしては難しすぎると書かれたりしている。う~ん、これよりさらに易しくかみ砕いて書けと言うのか。

もちろん不可能ではない。しかし、そうすると、どうしても正確さや厳密さが損なわれかねない。それに、あまりにも易しくしすぎると、ちょっと知識がある人にとっては物足りなくなってしまう。

この本が難しすぎるのなら、多くの人にはインフォームドコンセントなど理解不能で、とても成り立たないのではないかという気がする。あるいは、逆にそういう状況だからこそ、この本が多くの人の手にとってもらえたのかもしれない。

医学部を出たけれど、世の中のためになることはほとんどしてこなかった。なので、何人もの読者の方から、「がんのことがよくわかった」とか、「自分の病気の理解が進んで気が楽になった」とかのお便りをいただけたのは本当にうれしかった。

ほんの少しだけだけれど、世の中のためになれたのではないかと思っている。勘違いかもしれんけど、こわいもの知らずということで、そう思わせといたってください。

なかののつぶやき
「200回記念『ベストセラーへの道』は、今回で終わりです。おかげさまで、次々と本の執筆依頼を頂戴しております。なかには、「おぉ、それ書きたい!」と思わず叫んでしまうようなおもろい企画とかもあって、安請け合いをしていたら、すでにその数10冊以上。いつになったら書き終わることができるんでしょうね。って、他人事みたいですけど」

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