ゴスペル賛美歌。映画「天使にラブソングを2」で使用されたことでも有名。写真は楽譜を収録した「ボーカルスコア天使にラブソングを2/ピアノ&ボーカル」(ヤマハミュージックメディア)
私は高校1年生で聖歌隊に入隊し、様々な賛美歌に触れてきた。時は流れ、大学卒業間近となった頃、アメリカ留学が決まった。そうして聖歌隊の活動にもしばしの別れがやってきた。「ひかりさん、餞別として賛美歌をお送りしたいのだけど、何がいいかしら?」。仲間にそう言われ曲を選んでいると、ふと夏のコンサートで爽やかに歌った“いちわのすずめ”が思い出された。「声高らかに我は歌わん」(私は聖歌隊で歌うことを覚えた。これから異国の地においても歌い続けたい…)。壮行会で“いちわのすずめ”が私のためだけに歌われた。聖歌隊が声高らかに歌う姿が私の胸に迫った。
渡米後、大学院に入学。そして在宅ホスピスで音楽療法の臨床を始めた。この地で、死と向き合うホスピス患者さんへ歌う日々のなかで、終末期を生きるマリアと出会った。彼女は物静かで敬虔なクリスチャンであった。マリアのために“His eye is on the sparrow”を歌いかけた。最初は目を閉じながら聞いていたマリアだが、徐々に口が開き始め、“I sing because I’m happy,I sing because I’m free”と歌った(マリアの心にも歌詞が生きている…)。異国アメリカの地で思いがけず、思い出の曲によって心通った瞬間だった。
大学院を修了し、日本に帰国。再び日本の日常が始まってしばらくした時、“His eye is on the sparrow”を友人の結婚披露宴で歌う依頼を受けた。披露宴当日、友人を前に“I sing because I’m happy,I sing because I’m free”と歌う時、留学前に贈られた音、マリアのために歌った音、そして今祝福のために歌う音が繋がった。国も時間も、生も死も超越し生き続ける音楽。この曲は後に私の家族へと歌い継がれ、この物語はさらに続いていくだろう。「I sing because I’m happy,声高らかに我は歌わん」。