無二の友のために人生を遠回りした若者のせつなく、美しい時間を描いた短編小説。伊集院静著、同名の短編集(文春文庫)に収録
十年前に、天草で開業している大学の同級生が、地元を案内してくれた。天草には岬の先の崖の上の人目に付きにくい所にひっそりと教会が建てられていたことを知り、キリシタンが長い間潜伏せざるを得なかった歴史にも触れ知っていた。そして今年5月に長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産がユネスコの世界遺産として登録されることをニュースで知り、嬉しかった。
長崎県を舞台にした小説「冬のはなびら」は同級生の開業している天草を訪ね知るよりも以前に、小川道子さんの朗読で出会うことになった。車での移動中に聞き入り、すぐにこの作品に魅了された。
主人公の月岡修は社会に適応した形でエリート銀行マンとして人生を歩み始めるが、親友のアクシデントに遭遇し、友の願いをも叶える夢のような作業に人生を転換していく。自己一致した大事業は苦難の末、十年ほどの歳月をかけ成就へと展開していく。
主人公・月岡修の振る舞いをわが身に引き比べ、自分はと言えば身の丈には重すぎる医学部管理に関する職務を任され、必死に組織からの無言でのニーズに合致するように執行の施策を作ってきたように思う。実は打算の中での執行であるかもしれないことを、あたかも組織のために自らの心根から湧き出た意思のように欺いて執行しているのではないか。主人公の月岡修に恥じないことが毎日の医学部の執行で本当にできているか、自らに問いただしながら今も業務を遂行している。
時に長距離の移動時にカーステレオで聞きながら、伊集院静さんのストーリーに今でも身が引き締まる思いを感じている。私の晩年を打算から、自己一致した決断と行動をとることを心掛けるように示唆してくれた、私にとって大事な作品である。