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E型肝炎患者増加の理由は?【2011年のIgA抗体検出キットへの保険適用,2013年の届出基準検査方法への追加が要因】

No.4916 (2018年07月14日発行) P.60

石井孝司 (国立感染症研究所ウイルス第二部第五室室長)

砂川富正 (国立感染症研究所感染症疫学センター第二室室長)

登録日: 2018-07-16

最終更新日: 2018-11-28

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E型肝炎の届出数が増加している理由をご教示下さい。

(岐阜県 K)


【回答】

E型肝炎は,E型肝炎ウイルス(hepatitis E virus:HEV)の感染によって引き起こされる急性肝炎です。臨床症状は,A型肝炎との共通点が多く,潜伏期は平均6週間と言われています1)。感染経路は,途上国では感染者の糞便中に排泄されたウイルスによる経口感染が主で,常時散発的に発生し,時に飲料水を介した大規模集団発生が報告されています。それに対しわが国を含む先進国では,E型肝炎は動物由来感染症として注目され,近年の関心の高まりやサーベイランスの感度等の向上の要因も含め,報告も増加しています2)3)

わが国の2010年の大規模調査では,対象集団の5.3%が抗HEV IgG抗体陽性で,女性よりも男性のほうが,西日本よりも東日本のほうが,抗体陽性率が高い傾向がみられ,約500万人がHEV感染既往者と推定されています4)。わが国では,「E型肝炎」は2003年11月の感染症法改正で4類感染症に分類され,無症状病原体保有者を含め,医師には診断後直ちに全症例の届出が義務づけられています。

IgA検出によるE型肝炎の報告数は2012年から大きく増加しました。これにはE型肝炎のIgA抗体検出キットの保険適用(2011年10月),感染症発生動向調査のE型肝炎届出基準検査方法へのIgA抗体検出の追加(2013年4月)の影響(図1)が大きいと考えられます1)5)6)。また最近,肝機能異常時の検査としてE型肝炎の検査が含まれることが増えているようで,このため診断され届出される症例が増加している可能性も考えられます。



E型肝炎の感染経路に関しては不明な点も少なくありませんが,ブタの生肉やレバー等の生食はHEV感染のリスクが高いと考えられています。これまで一般的に生食用として提供されてこなかったブタの食肉(内臓を含む)が,飲食店等で「ブタのレバ刺し」などとして提供されている等の実態を受け,厚生労働省は公衆衛生上のリスクが高いと判断し,2015年6月12日からブタの生肉やレバー等の内臓を生食用として販売・提供することを禁止しました。野生鳥獣であるイノシシやシカ等の食肉からは,HEVのほか食中毒菌および寄生虫も検出されており,注意が必要です。国内のHEV感染例の感染源については,「不明」が最も多いものの,記載がある例において,ブタ喫食や,特にその中でもレバー喫食を疑う例が占める割合に大きな変化はみられず,さらなる分析が重要と考えられます。

【文献】

1) 国立感染症研究所:病原微生物検出情報(IASR). 2014;35(1):1-14.
[http://www.nih.go.jp/niid/ja/iasr-vol35/792-infectious-diseases/disease-based/a/hepatitis/hepatitis-e/idsc/iasr-topic/4266-tpc407-j.html]

2) Ahmed A, et al:Int J Hepatol. 2015;2015: 872431.

3) Marano G, et al:Blood Transfus. 2015;13(1):6-17.

4) Takahashi M, et al:J Med Virol. 2010;82(2): 271-81.

5) Kanayama A, et al:J Med Microbiol. 2015;64 (7):752-8.

6) 国立感染症研究所, 他:感染症週報. 2015;17(24): 7-9.
[http://www0.nih.go.jp/niid/idsc/idwr/IDWR2015/idwr2015-24.pdf]

【回答者】

石井孝司 国立感染症研究所ウイルス第二部第五室室長

砂川富正 国立感染症研究所感染症疫学センター第二室室長

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