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【私の一本】追憶

No.4916 (2018年07月14日発行) P.65

窪田 満 (国立成育医療研究センター総合診療部統括部長)

登録日: 2018-07-10

最終更新日: 2018-07-10

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1973年の米映画。シドニー・ポラック監督による社会派ラブストーリー。ソニー・ピクチャーズエンタテインメントよりDVDが発売

大事な「追憶」を持つ人に勧めたい映画

私が初めてこの映画を観たのは、1980年頃だと思う。札幌駅の地下の、暗い階段を下りていくところにあった500円の名画座だった。北海道大学医学部に入学したのはいいが、何かやる気になれず、暇つぶしに何気なく観た映画だった。決してわざわざ観に行ったのではない。有名な映画だったし、何と言っても主演女優のバーブラ・ストライサンドが歌う、「The Way We Were」は大ヒットしていたので、ふらりと寄ったのである。

その時の感想は、主人公のケイティは全然美人じゃないなぁ、でも、ハベル(ロバート・レッドフォード)は格好いいなぁ、「The Way We Were」は名曲だなぁくらいだったと思う。
初めて「追憶」を観てから4年後くらいだろうか、医学部の5年生くらいの時にもう一度「追憶」を観た。その時は、自分の信念を曲げないケイティに強く共感し、その強さに美しさを感じた。その頃、私には真剣に交際している女性がいた。

医学部卒業後、その女性と別れることになった。その後、初期研修医として東京で働いていたが、また、「追憶」を観た。3回目の「追憶」だ。今度は不思議なことに、ケイティにもハベルにも入れ込むことはなかった。ただ、二つの人生が一つになり、そしてまた二つ別々になり、ラストシーンでひとこと、ふたこと会話するのを観て、泣けて仕方なかった。

実はその後、今の奥さんと結婚してから4回目の「追憶」を観ている。しかし、その時は、懐かしい映画という感情以外のものは何もなかった。これを名画座で観ていた自分そのものが、過ぎ去った時間、二度と戻らない人生という「追憶」そのものだったのであろう。大事な「追憶」を持っているすべての人にお勧めする映画である。

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