認知行動療法は,気分が認知(考え方)の影響を強く受けることに注目し,うつ病や不安障害などの治療法として開発された精神療法である。
我々は通常,ある問題に直面したとき,身を守るためにまず否定的に考え,情報収集し,最終的には現実的な考え方に収束していく。しかし,抑うつ的になると否定的な考えばかりにとらわれ,物事を客観的にとらえることができなくなる。この場合,より丁寧に情報収集することによって,考え方を改善する必要がある。これは,単に肯定的に考えればよいということではない。現実を見ないまま考えることは,決めつけでしかない。問題に対して柔軟に考えることにより,具体的な現実の問題が見えるようになる。
また,柔軟に考えるために,目の前の問題(小目標)を解決することは重要だが,それだけにとらわれてしまうと,目先の対処ばかりに一喜一憂して先に進めなくなってしまうため,同時に長期的に何が大切かという問題(大目標)を見失わないことを意識し,対処することが必要である。常に小目標と大目標を意識した展望を視野に入れることで,目の前の問題に圧倒されすぎずに力を発揮することができるようになる。
上記のように,認知行動療法は,いわば生活の知恵,ストレス対処のエッセンスを集めたものとも言える。この治療は,近年では,うつ病などの精神疾患にとどまらず,慢性疼痛や緩和ケアなど,様々な場面でのストレスへの対処法として役立てられている。
【解説】
越智紳一郎 愛媛大学精神神経科特任講師