(和歌山県 I)
【独自に評価して記載するが,矛盾した状況を具体的に特記事項に記す必要がある】
ご質問は認知症の中核症状の3つの能力,すなわち,①短期記憶,②日常の意思決定を行うための認知能力,③自分の意思の伝達能力,のうち②と③の関係性についてです。
主治医意見書記入の手引きで,「日常の意思決定を行うための認知能力」は事例の日課における判断能力を評価し,「自分の意思の伝達能力」では本人が要求や意思,緊急の問題等を表現したり伝えたりする能力を評価するとしています。「自分の意思の伝達能力」は会話に限らず,筆談・手話あるいはその組み合わせで表現される内容から,①伝えられる,②いくらか困難,③具体的要求に限られる,④伝えられない,の4つの選択肢があり,「伝えられる」は,「自分の考えを容易に表現し,相手に理解させることができる」ことを表します。すなわち,3つの中核症状はそれぞれを関連づけるのではなく,独自に判断した上で記載することになっています。
ご質問の事例は,見守りが必要ですが,よどみなく話をする女性です。意思の伝達能力の判断ですが,会話内容や受け答え内容が正しいかどうかという判断ではなく,患者自身が自らが考えていることを他者に伝達できているかどうかで判断します。伝達する内容がたとえ間違っていても,間違っているなりに本人の意思伝達ができているのであれば「伝えられる」とすることになります。
ここで言う「話せている」とは,「伝えられている(自分の考えを表現し,その状態を相手に理解させることができる)」ということです。「理解させることができる」とは,事例が相手に「今は,問われたことについて,このように考えている」という普通の状況もしくは混乱した状況などを理解させることができるか,ということと考えられます。
以上から,ご質問の「話せている」は「伝えられている」となり,「認知症の範囲内で簡単な話ができ,伝えられている」という解釈ではないことになります。
すなわち,3つの中核症状は独立して判断しますが,実際には関連しているために,ご指摘のように矛盾した状況が考えられます。その状況を特記事項に具体的に記載することが重要です。近年,認知症ケアのあり方にperson-centered careが提唱2)されており,患者が表現する意思の伝達の特性を把握することは,個別のケアプラン計画に大いに役立ちます。
A市の要介護・支援高齢者におけるコホート研究で,初回に要介護認定を受けた者のうち,「認知機能障害あり」の者448人について「意思決定能力」と「意思伝達能力」の関係を調べたところ,「意思決定能力」は3割が「可」であったが,「意思伝達能力」は8割が「可」であり,両者に強い相関はなかった〔相関係数は0.499(P<0.001)〕ことが報告3)されています。よって,別々に観察することは,意味のあることだと考えられます。
【文献】
1) 厚生労働省老健局老人保健課長:要介護認定における「認定調査票記入の手引き」, 「主治医意見書記入の手引き」及び「特定疾病にかかる診断基準」について(老老発0930第2号). 2009.
2) Kitwood T:Dementia Reconsidered:The person comes first. Open University Press, 1997.
3) Mitoku K, et al:Open Nurs J. 2014;8:17-24.
【回答者】
三徳和子 人間環境大学大学院看護学研究科 地域看護学領域教授