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(担がん患者+CRP上昇)×補中益気湯[漢方スッキリ方程式(97)]

No.5268 (2025年04月12日発行) P.42

奧川喜永 (三重大学医学部附属病院 ゲノム医療部教授)

登録日: 2025-04-09

最終更新日: 2025-04-09

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がん患者における低栄養・サルコペニア対策は,QOLの維持だけでなく予後の改善にも寄与する可能性がある。一方で,疾患関連低栄養の観点からは,がん特有の要因が低栄養やサルコペニア発症の引き金となることを視野に入れておく必要がある。特に,「Hallmarks of Cancer(がんの特性)」の1つとして,腫瘍と宿主の相互作用に関連した炎症が明記されており,これまでの研究でも,炎症反応の亢進が骨格筋量の低下を引き起こすことが報告されている。

世界的な低栄養診断基準であるGLIMにも炎症の有無が低栄養の病因の1つとして含まれており1),2023年に報告されたアジア人向けの悪液質診断基準でも,CRP(C反応性蛋白)値の上昇(CRP>0.5mg/dL)がその診断基準の1項目とされている2)

がん患者におけるCRP上昇は,術前・術後,がん薬物療法や支持療法の実施中において低栄養やサルコペニアの増悪を促す要因となりうる。抗炎症作用に注目した支持療法の開発は極めて重要な課題といえる。

抗炎症効果に着目した補中益気湯の可能性

補中益気湯は,抗炎症作用を有するとされる漢方薬であり,これまで多くの研究でその効果が報告されている。担がんマウスモデルにおいて,補中益気湯の投与が血清IL-6濃度や腫瘍組織におけるマクロファージのIL-6発現レベルを有意に低下させることが示されている。また,ヒト気管上皮細胞やレンバチニブ誘発疲労モデルマウスにおいても,補中益気湯がIL-6産生を抑制することが確認されている。さらに,補中益気湯およびその有効成分が,マクロファージや宿主組織におけるNF-κBの活性化を抑制することでIL-6増加を抑えることも明らかとなっている。

最近,我々は担がん宿主における補中益気湯の長期服用による抗炎症効果について報告した3)。後向き観察研究ではあるが,3カ月以上の補中益気湯の内服により投与前と比較してCRP値の有意な低下が認められた。この所見は,特に切除不能がん患者において有意に認める所見であり,がんの病勢が進行する状況でもCRPの低下が確認された。加えて,担がんマウスモデルを作成し動物実験での検証も行い,補中益気湯の内服が同様の効果を認めることを報告している。

アンチエイジング効果をもたらす可能性も

本研究では,担がん宿主における変化として補中益気湯の効果を確認したが,これは炎症が顕著に惹起されやすい状態であるため,少数例の検討でも明確な効果が得られたと考えられる。したがって,補中益気湯はがん患者に限らず,慢性炎症を伴う非がん疾患(COPD,循環器疾患,膠原病など)にも有効である可能性がある。

さらに,「加齢」そのものが緩やかな炎症反応と捉えられることから,高齢化が進む現代社会において,加齢に伴う炎症を抑制することで「アンチエイジング」効果をもたらす漢方薬としての可能性も考慮される。

  

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