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【私の一本】ドクター(The Doctor)

No.4923 (2018年09月01日発行) P.67

坂部 貢 (東海大学医学部長)

登録日: 2018-08-28

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心臓外科医として成功した医師が、自らが癌患者の立場になることで、医師のあるべき姿を考えるようになる人間ドラマ。ランダ・ヘインズ監督、ウィリアム・ハート主演、1991年公開。ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメントよりDVDが発売

医師の「あるべき姿」を問いかける一本

1988年から約2年余り、米国マサチューセッツ州ボストンにあるタフツ大学医学部に留学していた。帰国後3年ほど経った冬、学会で再びボストンを訪問することになり、2年間余り過ごした街を懐かしく散策した。当時、通勤路として歩いていたボイルストン通り沿いに、ビデオ店があり(まだDVDは普及していない)、約3年ぶりに中を覗いてみた。そこで見つけたのが、今回紹介したい私の一本である。

実在の医師であるエドワード・ローゼンバームの実話に基づいた作品であると、ビデオケースの裏面に記載されていた。 主人公の心臓血管外科医であるマッキーは、患者に気持ちを入れない、また患者にもまわりの医療スタッフにもやや横柄な態度を取る自己万能感に溢れた人間である。その彼が、いつしか喉に異変を感じ、同じ病院で働く耳鼻咽喉科の女医であるアボットの診療を受ける。彼女から実に事務的に喉頭腫瘍を告げられ、戸惑いながらも、早期治療を受けることになった。自身が働く病院の医師という立場から、突然、喉頭癌の患者という反対の立場に立った彼は、医師から患者という心の葛藤、同じ患者として知り合った脳腫瘍で苦しむ女性との交流を通して、今まで自分が気づかなかった、患者が抱える多くの不安や苦しみを徐々に理解できるようになり、医師のあるべき姿を真剣に考えるようになる、というストーリーである。

恐らく、最初にこの映画を観た当時の平均的医師像というものは、欧米、日本を問わず、主人公のマッキー医師そのものだったように思う。

私は、この映画を自身に対する戒めとして、これまで何度となく観ている。また、臨床実習に入る前の医学生のオリエンテーションなどの機会を利用して、毎回この映画を紹介している。

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