矯正施設における医療を担っておられる先生方もおられるかと思います。代表的なのは刑事施設で、主として受刑者を収容して処遇を行う刑務所(少年刑務所を含む)と刑事裁判が確定していない未決拘禁者を収容する拘置所があります。その他、主として家庭裁判所から観護措置の決定によって送致された少年を最大8週間収容し、専門的調査や診断を行う少年鑑別所、主として家庭裁判所から保護処分として送致された少年に対し、社会不適応の原因を除去し、健全な育成を図ることを目的に矯正教育を行う少年院があります。
国民誰にも与えられている医療へのアクセス権は確保されなければなりませんので、矯正施設内でも、一般と同様な医療を提供します。具体的には、受刑者の健康を管理するとともに、施設内での疾病の流行(インフルエンザの蔓延や結核の集団発生など)を予防する必要があります。
もし、受刑者の感染症が治療されない状態で一般社会へ出たとすれば、さらに社会で疾病を蔓延させることにもなります。したがって、矯正医療体制を確保することは、国が行う重要な責務の1つです。これについては刑事収容施設法に、「刑事施設においては、被収容者の心身の状況を把握することに努め、被収容者の健康及び刑事施設内の衛生を保持するため、社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講じるものとする」と定められています。
近年、受刑者の高齢化も進んでおり、受刑者の3分の2以上が何らかの疾病に罹患しています。すなわち、矯正医療の需要は年々増加しつつあるのです。特に入院と同等の医療を要する人や血液透析などの特殊な医療を要する人は、医療専門施設、医療重点施設、あるいは医療少年院に集約されます。
もちろん、これ以外の施設でも医師が必要です。このような矯正施設の医療を担う医師を矯正医官と呼びます。全国の過疎地で医師不足が叫ばれていますが、過疎地における矯正医官不足も進んでいます。
矯正医療にはその特殊性があります。まずは、収容者が非日常的な経験をしていることです。反社会的勢力との関係者、薬物使用者、不特定多数の性行為経験者が目立ちます。さらに精神神経疾患罹患者も多く含まれます。したがって、われわれ医療を行う者も、この特殊性を理解しなければなりません。患者さん個々の生活背景を把握したうえで医療を提供することは、一般の医療と矯正医療で決して違うことではありません。
さらに私が少年院で感じたことは、一般に知られている健康や病気の予防についての知識を持ち合わせていない人が多いということです。幼少時から、特に家庭内で満足な教育や躾を受けてこなかったがゆえに、若年時から不健康な生活になってしまったのでしょう。特に虐待を受けていた子も多く、養護施設などで長く暮らしていた経験がある子もいます。
このように、虐待や逸脱行動の連鎖がある現状に対しては、国を挙げて解決策を見出さなければならないと思います。矯正医療は全額、国の税金でまかなわれています。先生方には是非とも矯正医療の重要性をご理解いただき、ご協力をお願いする次第です。