毛様体脊髄反射(ciliospinal reflex)は,顔面の痛覚刺激では三叉神経脊髄路を,頸部の痛覚刺激では外側脊髄視床路を上行し,毛様体脊髄反射が生じると理解してよいのでしょうか。あるいは顔面の痛覚刺激では三叉神経脊髄路から,また頸部の痛覚刺激では頸神経から,直接,毛様体脊髄中枢(第8頸髄~第3胸髄)に伝わり,この反射が生じるのでしょうか。もし,頸部の痛覚刺激が直接,毛様体脊髄中枢に伝わり本反射が生じるのであれば,刺激部位の相違により脳幹反射とそうでないものとが存在することになるのでしょうか。痛覚刺激部位の相違を含め,本反射の詳細な伝導路についてお教え下さい。
(東京都 K)
【交感神経の興奮で瞳孔散大筋が収縮し,副交感神経の抑制により瞳孔括約筋が弛緩】
毛様体脊髄反射は,「頸部をつねってみて,両側の瞳孔が1~2mm散大すれば正常」というものです(図1)1)2)。本反射は疼痛刺激で起こるので,意識障害時の検査にも用いられ,脳幹障害の程度を知るのに重要です。本反射は,対光反射,角膜反射,眼球頭反射(人形の目現象),前庭反射,咽頭反射,咳反射と並び脳死判定の際の「脳幹反射の消失(7つ)」の1つであり,医師は理解しておかなければなりません。明るいところでは反射が出にくいので,眼を多少遮蔽して観察します。
毛様体脊髄反射における瞳孔の散大には,視床下部から毛様体脊髄中枢に下行してくる交感神経線維(頸部)が関与しています。したがって,三叉神経脊髄路・外側脊髄視床路→視床→中心後回の経路とは別になっています(図2)1)。
交感神経の損傷によって縮瞳が起こるHorner症候群は有名ですが,毛様体脊髄反射では交感神経の刺激によって散瞳が起こります。「Horner症候群と毛様体脊髄反射は逆の関係」と考えると理解しやすいと思います。
毛様体脊髄反射が消失していれば,脳幹が障害されていることを意味しているとされますが,この反射弓の中枢は頸髄から上部胸髄にあるので,脳幹障害を評価するには適正ではないとの説があります2)。
瞳孔の拡大は眼に入る光のみによって左右されるのではなく,眼以外からの刺激も瞳孔の大きさを変化させる可能性があります。強い刺激,ことに頸部筋に加えられた刺激や強度の精神的興奮は瞳孔の散大を引き起こします3)。この散大は交感神経により支配されている瞳孔散大筋の収縮によると考えられてきましたが,副交感神経抑制による瞳孔括約筋の弛緩によるものとも考えられています(図2)1)4)。
【文献】
1) 堀内正浩, 他:Clin Neurosci. 2004;22(8):931-2.
2) 田崎義昭, 他:ベッドサイドの神経の診かた. 改訂15版. 南山堂, 1994.
3) Duus P:Neurologisch topische Diagnostik Anatomie-Physiologie-Klinik. Thieme Georg Verlag, 1987.
4) 後藤文男, 他:臨床のための神経機能解剖学. 中外医学社, 1992.
【回答者】
堀内正浩 川崎市立多摩病院神経内科部長/聖マリアンナ医科大学神経内科准教授