問わず語りやリフレージングだけで患者が次々とよどみなく話してくれるとありがたいが,実際には,「そこに赤ちゃんがいる」→「そこに赤ちゃんがいるのですね」の繰り返し(リフレージング)だけで臨床面接が完結することは少ない。この一見奇妙な言葉のやり取りを,どのようにして親密で信頼関係に満ちたコミュニケーションへつなげていき診療情報を得るかが,医師の腕の見せどころである。
バリデーション技法では質問すること自体を14の技法(No.4738,p46,表1参照)の項目の中に挙げてはいないが,重要な技法として扱っている。また『認知症ケアのバリデーション・テクニック』(ビッキー・デクラーク・ルビン著. 稲谷ふみ枝訳. 筒井書房,2009.)では具体的な質問の仕方が随所に記されているので,参照頂きたい。
質問方法には2通りあり,TPOに応じて使いわける。1つがyes・noで答えられない「開かれた質問」(open question:オープンクエスチョン)で,もう1つがyes・noで答えられる「閉ざされた質問」(closed question:クローズドクエスチョン)である。たとえば,「お昼ご飯は何にする?」はyes・noでは答えられないのでオープンクエスチョンである。「お昼はうどんにする?」はyes・noで答えられるのでクローズドクエスチョンである。
言語的コミュニケーション能力(=思考能力)が保たれた認知症患者にはオープンクエスチョンが有効な場合が多く,思考能力の衰えた認知症患者には,オープンクエスチョンは却って当惑する場合が多いので,クローズドクエスチョンが中心になる。ただし,オープンクエスチョンを続けすぎると気分を害する患者もいるので,どちらの質問方法がよいかは一人ひとりの言語的および非言語的反応を観察しながら見きわめていく。
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