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膵囊胞の癌化とその進展様式は?

No.4930 (2018年10月20日発行) P.60

多田 稔 (東京大学医学部消化器内科講師)

登録日: 2018-10-21

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76歳,女性。数年前,急性膵炎を発症し,膵頭部の膵囊胞由来との診断。その後,今日まで3回急性膵炎を発症しています。ここ2~3年,囊胞内に腫瘤状の画像を認め,やや腫大中。膵囊胞の癌化とその進展についてご教示下さい。図1aのように囊胞内壁に沿って大きくなるのでしょうか。それともbのように囊胞内に塊状に腫大するのでしょうか。

(岡山県 A)


【回答】

【典型的な流れは,腺腫から上皮内癌を経て浸潤し,癌化】

膵炎を発症した患者の膵囊胞内腔に腫瘤状の画像を認める場合,最も可能性が高い疾患は膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)です。膵管内に乳頭状に増殖する膵腫瘍で,粘液を産生するため囊胞状になりますが,腫瘍細胞は膵管上皮に置き換わるように発育するため,通常,囊胞壁は平滑です。その多くは,分枝膵管が限局的に拡張して多房性の囊胞形態を呈する分枝型IPMNで,ご質問の症例に該当すると思われます。

IPMNは身近な疾患では大腸ポリープに相当し,腺腫から上皮内癌を経て浸潤し癌化するのが,典型的な進展・癌化です。病理診断が得にくいため,画像所見を中心とした診断により悪性を疑う場合が切除対象となり,「IPMN/MCN国際診療ガイドライン」が作成されています。特に癌化と関連するのは,壁在結節と呼ばれる囊胞内腔のポリープ様成分の出現や膵管拡張です。したがって,IPMNは囊胞壁に沿って発育しますが,図1bのように囊胞内にポリープ状の腫瘍が出現すると,癌化した可能性が高いと判断されます。

国際診療ガイドラインの最新版は2017年に改訂され,第3版になりましたが,造影される5mm以上の高さの壁在結節があれば切除適応となります1)。ただし,あまり隆起しないで壁全体が悪性細胞に置き換わることもあり,壁全体の肥厚や造影所見を認めた場合は注意が必要です。なお,うっ滞した粘液が固まって壁在結節様にみえることがありますので,造影CTや超音波内視鏡での精査が必要です。癌化していなくても急性膵炎を繰り返すことがあり,その場合は切除の検討が必要です。

IPMNにはこのようなIPMN由来浸潤癌と言われる典型的な癌化のほかに,囊胞部位には変化なく,離れた場所に浸潤性膵癌が発生することがあり,経過観察の場合は膵臓全体をチェックする必要もあります。

他の囊胞性膵腫瘍のほか,最も重要な鑑別疾患は膵炎に伴う仮性囊胞です。囊胞内の出血,壊死物質が囊胞内腔で塊状になり,IPMNの壁在結節に類似した形態になることがあります。

【文献】

1) Tanaka M, et al:Pancreatology. 2017;17(5): 738-53

【回答者】

多田 稔 東京大学医学部消化器内科講師

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