吉川英治著、吉川英治歴史時代文庫(講談社)などに収録。二天一流の開祖である剣豪・宮本武蔵の成長を描いた歴史エンタテイメント
私は同じ本は再読しない主義である。しかし、この本は初回が高校2年の夏休み。大学時代に再読。勤務医になってからも3回、4回と読み続け、大河ドラマで取り上げられた時にも飛ばし読み。10回以上読んだ箇所もあるが、何回読んでも新鮮な個所が見つかる。
私は研究生時代、吉岡一門との決闘場所である一乗寺下り松に住んでいた。初の赴任地は奈良県大和高田市で、興福寺槍の宝蔵院も訪ねた。そして今、武蔵やお通、又八の生まれ故郷である佐用谷下流の赤穂で40年余り住んでいる。武蔵が私を呼んでいるのかも?
時代の背景も関ヶ原から江戸時代へと移る変革の時代で、源平時代や幕末と同じように面白い。お通や又八母子との田舎時代からのしがらみなども、大字いなか字どいなか育ちの小生にはよくわかる。作者に医学の心得がないにもかかわらず傷が癒えたり熱が下がったりする場面の描写が大変上手く、自身の経験なのか医療関係者に監修、助言してもらったのかと思うほど的を射た適切な表現である。
主人公の剣の修業はある意味、外科医の私には良く理解できる。母校を飛び出し、梶谷先生の癌研や小児外科の植田先生に武者修行させて頂いた。
また、大河ドラマで宝蔵院との戦いのロケ地となった姫路市、西の叡山と呼ばれる書写山円教寺を訪れることもお勧めしたい。都会の近くにありながら深山幽谷の気分が味わえる場所である。院長時代に医療事故で悩んだ時には親友と訪れ、大樹管主の「忘己利他」の講話を聞き、精進料理と般若湯をいただいたのも楽しい思い出である。それ以後、医療事故が無くなったのも御利益か?佐用谷を遡り、岡山県側の武蔵の故郷・宮本村のドライブも一興である。