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【論点】インフルエンザ抗原迅速検査をルーチンに行うか

No.4940 (2018年12月29日発行) P.22

野口善令 (名古屋第二赤十字病院第一総合内科部長/副院長)

登録日: 2018-12-26

最終更新日: 2018-12-25

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Bを選びます。流行期のインフルエンザの検査前確率は十分高く,検査をしてさらに検査後確率を高めても意思決定に影響しません。一方,迅速検査が陰性であったとしてもインフルエンザを除外できず治療不要とは言えません。さらに,治療方針の決定は価値観による影響が大きく,インフルエンザである確率の高さには依存しないからです。

1 診断・治療のエビデンス

検査の目的は,第一義的には診断をつけて治療につなげることである。本稿のテーマは,「検査を行うか」だが,これには治療も関係するので,まずはインフルエンザの診断・治療のエビデンスをまとめてみる。

診断については,インフルエンザ流行期に38℃以上の発熱と咳があれば,インフルエンザである確率は高い1)。インフルエンザ迅速診断キットは,特異度は高いが感度が高くない。感度,特異度はそれぞれ62.3%,98.2%くらいである2)

特異的治療は,抗インフルエンザウイルス薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)であり,オセルタミビル,ザナミビル,ラニナミビル,ペラミビルがある。インフルエンザ発症から48時間以内の投与開始で,有症状期間(特に発熱)が1日前後短縮される。脳症,肺炎などの合併症予防や重症度・死亡率軽減の効果については現時点では示されていない3)

厚生労働省の報告書によれば,異常行動は抗インフルエンザウイルス薬使用の有無にかかわらず,インフルエンザ罹患自体に伴い発現する。抗インフルエンザウイルス薬と異常行動との明確な因果関係は不明である4)

まとめると,流行期の病歴と身体所見から臨床診断した場合には,インフルエンザである可能性はかなり高い。加えて,迅速検査が陽性ならほぼ確実にインフルエンザであるが,陰性でも否定はできない。これは臨床的な感覚とよく一致している。

特異的治療薬である抗インフルエンザウイルス薬による治療で得られるものはQOLの改善であって,生死に関わる強いアウトカムではない。抗インフルエンザウイルス薬と異常行動との明確な因果関係は不明だが,注意するに越したことはない。たとえて言えば,特異的治療薬と言えども値段が高く,気になる稀な副作用はあるかもしれないが,よく効く解熱薬のようなものである。

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