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スローフード、スローライフ、そしてメディコ・ディフーゾ?[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.22

難波光義 (兵庫医科大学病院病院長)

登録日: 2019-01-02

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病院長職、足掛け5年。海外出張皆無の5年が間もなく終わる。

病院長職務規定に、「海外出張は、罷りならぬ」とは書かれていないが、昨今のように、医療安全と倫理の遵守に加えて危機管理も怠りなく!となれば、おいそれと国外には出かけられない。まさに、かごの鳥という境遇である。以前、教授時代には欧州糖尿病会議などでイタリア、オーストリア、フランスなどを訪れることができた。最近では、国外に脱出できない憂さをテレビの海外旅行番組などで晴らしている。中でも、「イタリアの小さな村から」が好きな番組で、欠かさず見てきた。

過疎に悩むイタリアの小さな村や町。暮らしに多少の不自由があるにせよ、美しく個性ある集落を活性化しなければ、ご先祖様に申し訳ない、ということで、「アルベルゴ・ディフーゾ(分散した宿)」というシステムが試みられている。一軒のホテルですべての機能を果たすのではなく、村の広場を中心に、宿としての機能をあえて分散させる。帳場はここの家、寝室はこことあそこの家、夕食のパスタは村に一軒ある気が置けないリストランンテで、翌朝は村人行きつけのバールでカプチーノと手づくりパンを、という趣向である。わが国のテーマパークと決定的に異なる重要なキーワードは「住民との交わり」である。

わが国でも、スローフードやスローライフという言葉は既に巷間に定着したように思われるものの、その精神の具現化は、未だ道遠し、の感がある。生活習慣病の発症・進行予防には、何よりもスローフード、そして人生を生き急ぐことなく、スローに取り組むライフスタイルが最も効果的とされて久しい。

ところが、生活習慣病を発症した全国の高齢者たちは、われ先にと地方都市にある、専門医がいてピカピカの検査機器も完備した大病院へ殺到している。

このように、地方の高齢者、とりわけアクセス手段を持たない弱者に対して「医療過疎」と「医療機能の偏在」が完成されていく。政府も医療界も学会も、「これからは『遠隔医療』だ、『Ai ホスピタル』だ!」と声高に叫び、AiやIoTを駆使した「双方向の患者指導・診療」が行えるシステムさえ整えれば、事足れりと思い込んでいる。

超高齢化や独居が当たり前になりつつあるわが国の過疎地にとって、彼らの医療と保健を支える、「メディコ・ディフーゾ(分散して見守る医療と介護)」とも呼べるシステムの導入はどうだろう?コンビニの隣にある診療所(患者カルテをはじめとした医療情報は都市の専門医や医療機関とIoTで結ばれている)を核にして、保健師さんが週1回訪問する。隣村の理学療法士さんが週2回在宅リハにきてくれるし、介護士の資格をとったお向かいの奥さんが朝夕声をかけてくれる。お薬はコンビニ業者が食料品配送のついでに届けてくれる。宅配食をつくっているおばさんちの娘さんは隣町の総合病院の管理栄養士さんだ。こんな「メディコ・ディフーゾ」をわが国のあちこちにというのは、高齢医師の初夢だろうか?

人生のエピローグを、生まれ育ったふるさとのわが家でより健やかに過ごし、幼馴染の人達に看取られる。これこそが「地方創生」の出発点ではないか?と思うのである。

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