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precision medicine or integrated medicine?[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.31

滝口裕一 (千葉大学医学部附属病院腫瘍内科教授)

登録日: 2019-01-02

最終更新日: 2018-12-25

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オバマ前大統領がprecision medicineに年間2.15億ドルの予算をつけると述べたのは2015年一般教書演説でのことであった。残念ながら、日本では特別な予算措置はなかったが、それでも進行がんの薬物療法の進歩は決して米国に負けてはいない。

たとえば、患者が進行肺腺癌と診断されたら、病理診断に用いた検体からEGFRなど4つの遺伝子変異の有無を調べ、変異が認められればその遺伝子に対するチロシンキナーゼ阻害薬で治療する。治癒には至らないが、従来の治療に比べて格段に長期間病勢制御が得られ、副作用も軽い。いずれの変異も認められなければPD-L1発現を調べ、強発現であれば免疫チェックポイント阻害薬で治療する。その効果と高額な医療費については、一般紙やテレビでも報じられている。さて、その残りが従来のプラチナ併用化学療法で治療される。

従来はプラチナ併用化学療法で一様に治療していたのに対し、がんの遺伝子変異や蛋白発現により治療法が細分化され、治療成績も良くなっているのだから、まさにprecision medicine様々である。それだけではない。EGFR阻害薬に耐性になればその時点でもう一度生検を行い、T790M変異の有無を調べて耐性克服の治療薬を使う。さらに、先進医療として次世代シークエンサーを用いて、何百もの遺伝子を調べて治療法を選択する試みも国を挙げて行われている。細分化の方向性は果てしないかに見える。

precision medicineといえば聞こえはよいが、complex medicineとでも言いたくなるのは考え方が古いことの証拠であろうか。単純な方法でうまくいかなければ、複雑化して対応するというのは常套手段であるが、今の進行がん治療はその袋小路に入っていないだろうか?

分子生物学の長足の進歩により細分化されたものが、さらなる画期的なイノベーションにより再統合が起きないとも限らない。ノーベル賞受賞で改めて脚光を浴びた免疫チェックポイント阻害薬がその起爆剤になって欲しいと期待している。

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