「陥入爪」、「巻き爪」。多少用語の混乱はあるが、外科医や皮膚科医のみならず、よほどの専門家でもない限り、major系の臨床医ならば生涯に1〜2度は診察するはずの、ありふれた疾患だ。爪の専門家でもなけりゃ、わざわざ写真をとるなんてことも滅多にない。
私も、30年の臨床経験で写真を撮らせてもらったのは1人だけ。ある意味では最も重症な陥入爪患者だった。左母趾の爪の脇が痛いというので見せてもらったところ、確かに爪の先端が皮膚に陥入しているが、炎症性の肉芽が盛り上がっているわけでもないし、爪の「巻き」もほとんどない。大したことはなさそうだと思ったのだが、母趾の側面をちょっと圧迫したら、外見上の爪と全然離れた趾先から排液が出てきた(上の写真)。まさかと思いつつ、爪の表面に沿ってペアンを進めたところ、ペアンがその趾先から出てきた(下の写真)。このペアン、決して力を入れて突き通したわけではない。イノシシ科のバビルサという動物は伸びた牙が上顎の皮膚を突き破って顔に出てくるそうだが、この爪も趾の皮膚を突き破った状態だった。
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