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働き方改革・安全・安心[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.72

木村 正 (大阪大学医学部附属病院病院長 )

登録日: 2019-01-05

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社会全体と同じく、医療界にも働き方改革の波が押し寄せている。医学部入試で女子と多重浪人生を冷遇したことも、根底には昭和末期の「24時間戦エマスカ」に「Yes!」と答えることができる人材を欲したことがある。この対策として、最も言われているのはタスクシフトである。

医療人は免許商売なので、労働市場に他者は参入できない。したがって、タスクシフトは勢い非医療職者の病院への導入にかかってくる。しかし、医療界には情報管理、安全、感染、倫理など独特な労働環境があり、資格も必要で「バイト探しは〇〇」のサイトで人集めができるわけではない。もちろん、事務的な仕事のタスクシフトや、産科における助産師のような医療上の知識と権限を持つ看護職の育成は急務である。

しかし、日本には驚くことに精神科単科病院を除いても7000以上の病院が存在する。「病院」が身近に存在することは地域にとって大変「安心」なことである。しかし、大多数の病院で外科系の観血処置(分娩も含む)までを行うこと、24時間対応の医療を展開することが、真に「安全」なのであろうか。昔は内科なら、内科系医師全員で当直業務を分担し、たとえば消化器専門の内科医が夜間は胸痛や頭痛に対応し、翌朝に専門家が診たものである。

しかし、今は専門家が最初から診ないと安全度が劣る、と判断され、専門外の医師が診て齟齬があると訴追されかねない時代となった。すると、多くのチームが当直体制を組み、1チームの人数が減り、夜間や時間外業務が増える。現行の労働基準法(労基法)でさえも当直業務に上限(週1回の当直、月1回の日直)があり、1チーム8人以下ではたとえ当直業務を全員が最大限の回数行っても違法状態になることは案外知られていない。この際、夜間の診療が当直体制で良いかどうは置くとして、たとえば二次医療圏ごとに、その分野の専門家で当直可能な医師が何人いるかを計算し、8人をチームとしてまとめることができないのであれば、その医療圏での当該分野を持つ病院はその分野の専門的急性期医療から撤退し、三次医療圏単位での配置を調整する、ぐらいの決断をしないと、安全と働き方改革は両立しないのではないだろうか。ある分野の1チームを大きくすると、地域の安心はそこから余裕のある昼間に医師を派遣して、外来を担当することで担保できる。今まで、地域に「安全」で「安心」な医療を提供します、という理念のもと、大小問わず数多くの公的病院が展開されてきたが、別の発想を持って「安全」と「安心」を分離しない限り、働き方改革、というより現行労基法の遵守すら困難と思う。

私の専門である産婦人科・周産期では既に10年以上前から大きな課題であったが、働き方改革を通じて全科共通の課題となったように感じている。「あれも、これも」欲しがるのがコドモ、「あれか、これか」を選ぶのがオトナ、だとしたら、いよいよ医療界も「あれか、これか」を選ばなければならない時代になってきた。

新しい御代をもうすぐ迎えるにあたり、個人に「24時間戦エマスカ」を求めた昭和は遠くなりにけり、である。24時間365日高いレベルの医療を期待される急性期病院のあり方を、真剣に考えなければならない時代がやってきた。

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