「最近の若いものは……」というため息。高齢になると若者の振る舞いで苦々しく思えるようになるのは、古今東西共通のようである。真偽は定かではないが、エジプトのピラミッドや古代メソポタミアの記録で、そして近代日本でも柳田国男著『木綿以前の事』がこの言葉を残しているようである。こうした嘆きと裏腹に、時代とともに人間の知能(IQ)が上昇しており、「前の世代」(たとえば、1940年生まれ」)より「若い世代(たとえば、1970年生まれ)」のほうが、同じ年齢を比較しても、知能、特に抽象的な思考能力が高くなっている、という研究がある。
この現象は、ニュージーランドの教育学研究者であるジェームズ・フリン教授が先進国の研究から発見したもので、「フリン効果」として知られている。しかし、そのメカニズムまではわかっていない。栄養状態の改善、様々な技術革新、グローバル化の進展により子どもの巡る環境の変化が、子どもの知能に影響を与えた可能性もある。そして、この向上した抽象的な思考能力により、若い世代は、自分とまったく違う境遇にある人の困難を想像でき、価値観の多様性や利他的な感情が高まるのではないか、というフリン効果の道徳的な効果、「道徳的フリン効果」への期待を持つ人もいる。
18世紀の経済学者アダム・スミスはその主著の『道徳感情論』で、「異国の見ず知らずの100万人の命よりも自分の小指のほうが遙かに重要だ」として、人間のエゴ、利己心の強さを強調した。しかし、21世紀の若者はアダム・スミスの想定する利己的な人間とは、かなり近い価値観を持っているかもしれない。国家間の利害対立で、多くの国際問題が発生する傾向になっているが、若い世代に、異なる境遇、異なる国の人への思いやりを持つ「心のグローバル化」を期待したい。