「発達障害」という言葉が、メディアで頻繁に登場するようになった。
文部科学省が2014(平成26)年に行った調査では、通常のクラスに在籍する児童生徒のうち、何らかの発達障害が疑われる子どもの割合が6.5%であったという。特別支援学級や特別支援学校に在籍する子どもを加えると、発達の遅れや偏りなどに配慮の必要な子どもは小・中学生の1割はいると推定される。近年では、成人期になってから仕事や対人関係の悩みなどを契機に精神科を受診し、そこで初めて発達障害の存在が判明する人たちも多い。
発達障害の人たちへの適切な医療を保障する鍵となるのは、児童精神科医である。これまでも児童精神科医は発達障害の子どもたちをたくさん診療してきた。しかし医師不足は深刻で、受診申し込みから初診までの待機期間が数カ月以上というところが多い。わが国は、児童精神科医の養成に関しては後進国である。児童精神科医を養成する臨床講座を医学部に設置している大学は、国公立・私立ともまだわずかである。厚生労働省が主体となった小児科医・精神科医向けの研修会などで児童精神科医養成が試みられているが、とても対応しきれていない。
発達障害の人たちの診療ニーズがこれだけ増加している現在、3つの対策を同時に進めていく必要がある。まず、各自治体で小児科医、児童精神科医、精神科医の役割分担と連携のあり方について検討を進め、莫大な発達障害の支援ニーズに対応できる地域医療体制を構築していくことが求められる。次に、診療に時間がかかり、薬物療法を主とすることの少ない児童精神科でも他科と遜色のない診療報酬が得られるよう、厚生労働省は保険診療の改訂を進める必要がある。最後に、文部科学省は、全国の大学医学部に児童精神科医養成のための臨床講座を設置するよう、何らかの支援対策を講じるべきである。
需給バランスが破綻しているわが国の児童精神科医療への対応は喫緊の課題であり、国を挙げて、中でも文部科学省が率先して児童精神科医養成に本腰を入れる必要がある。