サルコペニアとは、進行性および全身性の骨格筋量および骨格筋力の低下を特徴とする症候群であり、加齢に伴わずとも起こり、疾患の病態や予後に影響を与えることが明らかになってきている。肝臓領域においては、サルコペニアは肝移植や肝癌患者の予後を規定する独立した重要な因子であることが認識されてきた。ただ、2014年当時、統一されたサルコペニアの判定基準がなかった。体格の大きく異なる欧米の基準は準用できないし、医療制度や医療環境の違いも考慮に入れる必要がある。
そんな状況を受けて、筆者が理事長を務めていた日本肝臓学会で日本人に合った判定基準を設定した。むろん、世界やアジアの基準と大きな相違がないように十分に配慮した。「肝疾患におけるサルコペニアの判定基準(第1版)」は、2016年から日本肝臓学会のHPで公表されている。本基準を用いて、肝臓を含む消化器病領域で多くの新しいデータが発表されてきているのは、主導した者にとって嬉しい限りである。
さて、筆者は、まだ高齢者には属しておらず、三大生活習慣病も持っていない。しかしながら、若い頃からアスリートではなく、筋肉量は多いとはいえず、サルコペニアに陥りそうな懸念を既に抱いている。サルコペニアは、ほとんどの疾患において予後不良因子となる。
では、表題に記したごとく、我々は「マッチョでなければ生きていけない」のであろうか。おそらく、それは受け入れるしかない。しかし、筆者は、このフレーズの後には、「痩せられなければ生きている資格がない」という一文を続けたいと考えている。むろん、レイモンド・チャンドラーの『プレイバック』の中で、探偵フィリップ・マーロウが呟く、「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない。(生島治郎、訳)」のもじりである。筋肉量だけではなく、内臓脂肪量、内臓脂肪量/皮下脂肪量比も肝疾患の予後決定因子である。
「マッチョでなければ生きていけない。痩せられなければ生きている資格がない」は、ハードボイルド消化器病学の決め台詞かもしれない。