株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

今日における在宅医療の価値とは[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.17

髙瀬義昌 (たかせクリニック理事長)

登録日: 2019-01-01

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

古来より医療の形といえば、外来診療と往診の2つであった。わが国でも1950年代まで自宅での死亡率が8割を超え、その死因は肺結核、脳血管疾患、肺炎及び気管支炎と並んでいる。その当時の在宅医療は、それらの急性疾患が起こった際に医師を家に呼ぶ緊急往診が一般的な医療の形として国民に認識されていたと想定される。その後、医療技術が飛躍的に向上し、また、国民皆保険制度が確立されると、国民の誰もが病院で高水準の治療を受けられるようになり、それらの治療は入院医療に取って代わられることとなる。核家族化に伴う自宅における介護力の低下等社会の変化もあり、在宅医療は廃れていく。

しかし、約半世紀が過ぎた今、在宅医療は大きな意義を持っている。1990年代より通院困難な患者の家を計画的に往診する「訪問診療」が、外来、入院に次ぐ第3の医療として位置づけられ、2000年の介護保険制度開始や、地域包括ケアシステム推進に後押しされている。

私は在宅医療がクローズアップされはじめた頃、正確には2004年に東京都大田区にて訪問診療を中心としたクリニックを開業した。来年で15周年を迎えることとなるが、その間出会った多くの患者に在宅医療の価値を教えて頂いた。高齢者が地域で暮らし続けるためには、医療だけでは解決しない多くのイベントを乗り越えていかなければならない。昨年8月、日経新聞にて「認知症者、金融資産200兆円に マネー凍結リスク」という衝撃的な報道がされたが、私たちは日常的に認知機能の低下によって資産が適切に活用されない場面に出会い、その度に多職種との連携によって解決に向けて動いている。地域包括ケアシステムで謳われる「住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供」の重要性を痛感する出来事でもある。

在宅医療は、看取りのためだけではなく、人生最後のひとときを落ち着いて過ごせるよう支援するものである。在宅医療の価値とは何か……。今後は、その質が求められることになる。評価軸を明確化し、アウトカムをもとに語る準備をしなければならない。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連求人情報

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top