「天災は忘れた頃に来る」は、随筆家の寺田虎彦が言い出した警句だという説もあり、寺田が言葉として発したというよりは、手紙や随筆の文章の中から、伺われるそうだ。「人間何度同じ災害に会っても決して利口にならぬものであることは歴史が証明している」などがそれにあたるという。
しかし、現在では、「天災は記憶に新しいうちにやって来る」と言わざるをえない。昨年は、大阪府北部地震や北海道胆振東部地震、西日本豪雨に加えて、台風も各地で猛威を振るった。多くの人命が失われ、家屋の被害を受けられた住民の心痛や不安はいかばかりかと思うと心が痛む。
自治体は、災害基本法等により、被災者の救出、医療の提供、避難所・応急仮設住宅の供与、食品・飲料水の供与、土石等の障害物の除去等々、被災地の多くのニーズへの対応が求められている。一方、被災地のリソースはダメージを受け、供給能力の低下により、医療では、DMATやJMAT等の支援チームが、避難所での健康支援は、非被災自治体からの保健師や栄養士による支援チーム等の支援が必要になる。しかし、東日本大震災では自治体職員や役場等の被災により、支援チームの調整はもとより、被災者や避難所の情報収集・整理と情報分析、支援物資等の調達等々に係る災害時の自治体のマネジメント機能が低下してしまったとされた。
この経験を踏まえ、行政による災害時健康危機管理支援チーム(Disaster Health Emergency Assistance Team:DHEAT)の制度化に向けて、全国衛生部長会が中心となり、検討が始まった。構想から7年を経て昨年3月には、厚生労働省から「DHEAT活動要領」が出され、「制度から運用へ」という新たなステージを迎えた。全国保健所長会では、前述の検討に加わるとともに、DHEATの人材育成と普及啓発の役割を担ってきた。西日本豪雨災害では、制度化後初めてのDHEATが長崎県から岡山県に派遣されたことは、感慨深いものがある。災害の教訓を忘れることなく、「防ぎ得た死、二次健康被害の最小化」をめざしたDHEATの活動の充実はもとより、平時の関係団体等との連携構築が求められている。